【第47回】東京都台東区「COFFEE BAR オンリー」~「デンキヤホール」

東京都台東区浅草。

前回も浅草をブラリとしたが、あれから一週間も経たずにまた浅草寺大提灯の前にいた。
この間は散歩をしながら、やはり一回だけでは目当てのお店を廻りきれないしまた浅草まで来なきゃいけないのかな……と考えていた時、ふと『ホッピー通りで呑みたい』と言っていた友人のことをを思い出した。ただゲームスポットを巡るだけだと単調な展開になりがちなのだが“呑み”を挟み込めば少しは目先が変わって面白いかも? とひらめいたのだ。
呑兵衛の友人にしてみれば、呑んでいい気持ちになったところをいちいち酔いを冷ますことになるワケで中々に鬱陶しいと思うのだが、そこはどうにか納得してもらって本日開催の運びと相成った。
ちなみに私はお酒にめっぽう弱い下戸なので、合間に喫茶店を挟むのはむしろありがたい。

ホッピーストリートの写真01です

“ホッピー通り”はご存じだろうか。
浅草寺の西側、メイン繁華街である六区との間にある公園本通りの商店街がこう呼ばれている。
道の両側に並んでいるのはほぼ呑み屋。どのお店も軒先の庇から透明のビニールを垂らして道路近くまで店内スペースを拡張すると同時に、屋台のような雰囲気を味わえるようにしているのが特徴だ。このように店の前にイスやテーブルを並べて営業するスタイルは新橋などでも見かけるが、あれをスッポリとビニールのれんで覆ったような塩梅で客を惹きつける。

コロナ禍以降に創設された“歩行者利便性増進道路(ほこみち)”という制度で、自動車優先の交通から人に寄り添う道路の活用法が模索されはじめ、こうした路上営業が見直され始めているが、ホッピー通りはそれより遥か前からこのままであり一種の特区のような様相を呈している。道路交通法上ではどう扱われているのか定かではない。

ホッピーストリートの写真02です

さっそく、そのうちの一軒に腰を落ち着け、私はサワーを、友人はホッピーセットを注文して飲み始めた。
時刻は午後3時を回ったところ。ホッピー通りは昼間から一杯やりたい人々の聖地なのだ。
グラスを傾け、談笑しながらも今日の予定を頭の中で復習しておく。事前に綿密に営業時間を調べ、訪問する順番とルートを組み立ててあった。
この辺の呑み屋は昼ごろから夜遅くまで営業しているが、テーブル筐体が置かれた喫茶店は案外営業時間が短い。これもコロナ以前は夜間営業や24時間営業の喫茶店は珍しくなかった。しかしいまや生活スタイルは大きく変化してしまい、完全には元に戻らないようだ。

最初の一杯を飲み終え(友人は“中”を二杯おかわり)まず訪れるのは、予定している中で一番遠い場所にある。長距離移動は後になればなるほど面倒くさくかったるい。お酒が入っていたらなおさらだ。それにこれから向かうお店は閉店時間が早めなのでこのタイミングがベストと踏んだ。

ホッピー通りを花やしき方面に進み、前回のエッセイでも通過したひさご通りを抜けて千束通りの奥へとどんどん入っていく。
サワーを一杯呑んだだけで私は顔の火照りを感じていた。対して友人は微塵も酔っておらず、むしろこれからというところでストップをかけられた困惑の表情をうっすら浮かべている。

千束通りの写真です

浅草観音裏の千束通りは、江戸の遊郭の流れをくむ東京屈指の風俗街・吉原の玄関口。風俗好きではないので吉原に遊びに行ったことはないが、興味本位で昼間に散歩してみたことは何度かある。行ってみるとやけに喫茶店や喫茶室が多いことに気づくだろう。なぜか入口の扉を開放していて、中を覗くと喫茶店というよりスナックのような佇まい。
察しのいい方はお分かりかもしれないが、吉原における喫茶店とは風俗の紹介所である。だから店頭には「18歳未満お断り」「女性お断り」などと札が下がっているのだ。

斡旋を行なうお店なので待ち時間が発生することもあるだろうし、その暇つぶしのために麻雀ゲームなどが置かれた時代があったと聞いたこともある。もしかしてまだそれが残っている可能性はあるかも……と考えてウロウロ歩いたが、そんな冷やかし客をにこやかに許容する雰囲気は皆無で、すごすごと引き返したこともあった。

オンリーの写真01です

そんなことを思い出しながら到着したのは、吉原の遥か手前の路地にある普通の喫茶店『COFFEE BAR オンリー』。
外観の看板建築がぐっと時代を感じさせ、店内の照明も壁もレトロモダンをこれでもかとアピールしている浅草らしい純喫茶だ。
創業は1952年。何度かリフォームはされているようだが、イスやテーブル、あちこちに置かれたアイテムからは昭和が色濃く香ってくる。その雰囲気をさらにもり立てているのが、一番奥の隅っこにポツリと置かれたテーブル筐体。
奥の方の席はなぜかいつ訪れても照明が落としてあり、テーブル筐体に座る機会はいまだ得られていない。長椅子席なのでおそらくはある程度の人数の場合に通される席なのだろう。チラリと見えるインストラクションカードは、筐体喫茶では定番の『赤麻雀』(パラダイス電子/1990)。稼働するかどうかは不明。

オンリーの写真02です

トイレに行くついでに筐体の様子を確認して戻ると、注文したホットドッグがやってきた。
コッペパンを縦に切り開いた状態でトーストしてあるので、パンの中まで焼き目が付きカリッといい食感を生み出している。ケチャップではなくソースを自分の好きな量かける。焼いたパンと焼いたソーセージ、そこにソースの味がプラスされ、銀のお皿に載っていることも相まってどこか洋食らしさが際立ってくる。

友人はコーヒーを啜り、怪訝そうな目でこちらを見ている。『お前が見たいというのは奥にある動きもしないアレなのか? そしてまた呑みに戻るというのになぜホットドッグを頼んだ?』とその目で強く訴えかけてくるのだ。
すまない。なるべく早く食べてすぐまたホッピーに戻るから、もうしばらく辛抱してくれ。

オンリーの写真03です

すっかり酔いも冷めてしまったので急いでホッピー通りへと引き返す。今日はこれをあと何回か繰り返すことになる。とんでもない条件を飲んでしまったと言う友人のボヤキを右から左へと受け流し、2軒目の魚が旨い呑み屋で乾杯。
どう見てもいつもよりハイペースな友人の呑み方からは、次は絶対に酔いを冷まさないぞという強い意思表示が感じられた。

そんな哀れな友人に、じゃそろそろ……と告げて向かったのはまたしても千束通り。さっき来た時に入ればよかったじゃない! と憤慨する様子を尻目にお店に入る。こっちはもうあまり営業時間もないので些細なことを気にしていられない。

デンキヤホールの写真01です

たぶん浅草でもっとも有名なテーブル筐体のある喫茶店『デンキヤホール』。
1903年に電気屋として創業し、後に喫茶店に転業したという東京屈指の老舗喫茶店だ。“デンキ”という当時のハイカラでモダンなイメージの言葉と、流行の兆しがあった牛乳軽食喫茶“ミルクホール”とをかけ合わせたのが由来と伝わる。

こちらも幾度かのリフォームを経て店内は新しいものと置き換わってはいるが、随所に歴史が垣間見える。そしてやはり奥の方に3台のテーブル筐体が現存している。

『ナムコクラシックコレクションVol.2』(ナムコ/1996)はつい最近まで稼働していたのだが、どうも故障してしまったようだ。品川駅近くの『喫茶ダリ』にあるのもVol.2だし、ナムクラはVol.1より2のほうが人気だったのだろうか。

デンキヤホールの写真02です

あとの2台は麻雀ゲームで『麻雀女学園 身体検査編』(ウインダム/1992)と『麻雀学園 卒業編』(フェイス/1988)のインストが入っている。こちらも電源は落とされているが、割と最近まで稼働していた写真が発見できるのでまだいけそうな気はする。

友人は『せっかく来たのにゲームしないの?』とこれまた苦々しげな顔をしているが、ゲームプレイが目的ではなく、これを見に来ただけと言うとすっかり黙り込んでしまった。

ここの名物といえば、焼きそばを薄焼き卵で包んだ“オムマキ”と、北海道大納言を3日かけて仕込むという甘くて温かい“ゆであずき”。
ソース焼きそばはその起源についていまだ研究が進められているジャンルだが、一説には浅草発祥ともされている。先程の『オンリー』でもホットドッグにソースをかけたように、ソースには洋食由来のモダンさがある。ソース味の焼きそばをオムライスよろしく卵で包むことでさらに憧れの洋食感を増し、華やかな存在感を放つ。

江戸の昔から屋台で売られていたというゆであずきもまた、戦後の復興期における砂糖の甘味とありがたみとがオーバーラップするハイカラさがあるように感じられる。
そのゆであずきをより現代的にした冷たい一杯“あずきオレ”を堪能する。特に夏の暑さに疲れてたどり着いた時など甘露という言葉がふさわしいドリンクなので、ぜひご賞味いただきたい。

デンキヤホールの写真03です

向かいで友人はホットのゆであずきを旨そうに食べている。
どうやら気に入ってくれたようで、少し罪悪感が和らぎほっと胸を撫で下ろした。

もうじき夜の帳は下りるが、浅草呑み・喫茶店行脚は終わらない。
まだまだ続くこの罰ゲームのような所業に果たして友人は耐えてくれるのか、それともどこかでブチギレるのか。

波乱の第3回へと続きます。

ホッピーストリートの写真03です

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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