【第46回】東京都台東区「コーヒーショップ シルクロード」~「コーヒーラウンジ ジョイ」

東京都台東区浅草。

東京近郊でもいまだ多くの喫茶店で“テーブル筐体”は働いている。
“働いている”とはゲーム機として稼働しているのではなく、喫茶店のテーブルとして機能しているという意味。ゲームプレイは出来ないけど飲食用のテーブルとしてそこにある“テーブル筐体のセカンドキャリア”的ニュアンスだ。

ネットを捜索してマークしていくことを繰り返していたら、テーブル筐体が置かれた喫茶店“筐体喫茶”は全国にそれなりの数を発見できた。そのうち訪問した東京の筐体喫茶数は79軒。そのほとんどは電源が落としてある、もしくは故障したまま放置された台であった。
またテーブル筐体はコントロールパネルが出っ張るため座りにくく、お客さんからは敬遠される傾向にある。積極的に座りたい少数派の私としてはむしろ譲ってくれてありがとうという気持ちだが、お店の方には「他に席空いてますけどそこでいいんですか?」と確認されることもしばしば。

テーブル筐体があることは確認できたがいつの間にか閉店してしまい、行きそこねた喫茶店も数多い。もっと早く行動すべきだったと日々後悔するばかりだ。
また、かつて訪れたことがある喫茶店も様々な理由で商売をやめていたりする。資料によると喫茶店数のピークは1981年でそこから減少傾向が加速、2020年代に入ってピークの6割減という驚くべき数字が出ている。2024年4月から2025年2月の倒産件数が66軒と高水準になったのは、コロナ禍で行われた経営支援策が終了したこと、コーヒー豆などの原材料費、人件費の高騰などが重くのしかかったこと、そこに従業員の高齢化などの諸条件も相まった結果だとみられているが、実際そうなのだろう。
食べログなどで店舗の営業状況をチェックをするたび「ああ…この店も」「え、閉まっちゃってる!?」とひとりで悶絶している。

そんな絶滅の危機に瀕する東京の筐体喫茶の残存傾向は“東高西低”で、東京駅から東側立地が多め。中でもひときわ密集しているのが台東区浅草近辺だ。

都営浅草線の浅草駅に列車が到着すると、あっという間にホームが人で埋め尽くされた。
外国人の観光客はもちろん、日本人もデカいスーツケースをゴロゴロと転がしておりただでさえ狭い都営線ホームはギュウギュウ詰めの状態でなかなか前に進むことが出来ない。駅構内から出るだけで5分ほどを要し、どうにか地上に出たものの人混みは変わらず、とにかく真っ直ぐ歩くことすら容易ではない。
人生の大半を東京で暮らしてきて人混みに慣れっこになったこともあったが、コロナ禍で人との接触が極端に低下した時期を経たことにより、また人混みが苦手になってしまった私にとってはなかなかの苦行だった。

浅草の風景です

せっかく浅草に来たのだから浅草寺にお参りしてから散歩しようかと頭をよぎるが、大提灯の辺りの凄まじい人混みを見て、参道を通過する気もすっかり失せた。
浅草駅と浅草寺を中心としたエリアから遠ざかるごとに街は少しずつ落ち着きを取り戻していく。国際通りを渡って路地に入り、喧騒の方を一度ふりむいてから大きくひとつ息をついた。やれやれ。

国際通り沿いの浅草ビューホテル裏手にある、渋い佇まいの喫茶店にフラッと入る。
時刻はまだ午前11時過ぎのランチ前ということもあり、店内にはお客さんがひとりいるだけのようだ。ぐるりと素早くサーチするとテーブル筐体が2台確認できた。では、奥の方に陣取るとしようか。

コーヒーショップ シルクロードです

『コーヒーショップ シルクロード』。店内喫煙もできる昔ながらの喫茶店だ。
浅草を本拠地として活動したミュージカル劇団・松竹歌劇団(SKD)の団員が憩ったお店だというから、その歴史の長さがうかがえる。SKDは1928年に発足し、いま浅草ビューホテルのある場所に1937年に建てられた浅草国際劇場をホームグラウンドとしていた。つまりはその後の時代からあるお店ということになる。

シルクロード店内です

まず注文を済ませてから、改めて店内を見渡してみる。昼間でも少し暗めの落ち着いた雰囲気。この暗さがちょうどいいのだろうか、先客はテーブル席で居眠りを決め込んでいる。
壁にはいい感じに色褪せた色紙がズラリと貼られていた。壁に収まりきれないからか天井にまで侵食している。SKDの関する情報はほぼ持っておらず、有名なところでは“ターキー”こと水の江瀧子と美空ひばりがいたということくらい……と思って調べてみたらSKDの美空ひばりと、昭和の歌姫・美空ひばりは同じ芸名の別人であることが判明した。今頃になって自分の間違った知識が更新されることになるとは……。

眼の前のテーブル筐体には緑のクロスがかけられ、見た感じではわからないようにしてある。イス側の側面に出っ張りがないところを見るとコンパネは外しているのかな? とクロスをひょいとめくってみて驚いた。

シルクロード店内その2です

コンパネ設置口はパックリと開けられ、そこから見える筐体内部にはパイオニアのレーザーディスクプレイヤーが格納されていたのだ。
ビデオデッキですらもう珍しい時代なのにLDプレイヤー?
マイク音量やステージセレクトスイッチもあるのでカラオケ用のLDのようだ。どうやらこのお店は過去にカラオケが歌えた時代があったということか。使用されなくなった機械の置き場所に困りたどり着いたのがテーブル筐体の中ということか。当然、基板もモニターも取り外されており空間は確保できているが、これは初めて見る利用方法だ。

そうなるとあっちに見えるもう1台がどうなっているのか気になってくる。遠目で見た感じだと膨らみがないのでコンパネは外してあるようなのだが……。

あれ? 隣の席、細身だから見落としていたけどよく見ればこれもテーブル筐体じゃん!
ちょっと失礼してクロスをめくってみると旧型の麻雀コンパネが現れた。ということはこのお店には計3台のテーブル筐体があったのか。ちなみにインストラクションカードはどれも入っていなかった。

シルクロード店内その3です

興奮しながら観察を続けていると注文したホットドッグが到着。
小さめのコッペパンにソーセージとレタス、きゅうり。必要最小限のシンプルさがちょうどいい。カラシはちょこんと添えられているがケチャップは懐かしの入れ物に入っている。このケチャップ入れまだ売ってるのか。

SKDファンがいまでも訪れるという思い出の聖地に似つかわしい可愛らしいホットドッグと、全然似つかわしくないテーブル筐体。LDカラオケもそうだが、このお店にも紆余曲折あったのだろうなと感じつつ、きれいに食べ終えてお店を出た。

シルクロード店内その4です

国際通りまで戻り、花やしきの脇にあるひさご通りに入る。観光客もまだ多いがメインからは少し外れたところにあり落ち着いた雰囲気でホッとするアーケード街だ。たまには米久本店ですき焼きでも食べたいな……と横目で眺めながら通り過ぎる。ひさご通りを抜け言問通りの信号を渡ると吉原の玄関口、千束通りへと続いていく。この裏浅草から先が筐体喫茶の密集地帯になっている。

この浅草編は一回ですべてのお店を紹介することは正直難しい。一番のネックは土日祝休業のお店が意外にあるということだ。東京有数の観光地である浅草は、土日の人出がハンパではない。そのため地元の人をメインのお客さんとするお店では土日休みに設定しているケースがあるのだ。
それはつまり、平日に改めて取材にくる必要があるということ。一応、すでに一度は訪問しているお店が多いのだが現在の営業状況は確認しておく必要があり、それはネットの情報を鵜呑みには出来ない。

そういった事情も考慮したうえで、今日のチョイスはどこにすべきか検討し、千束通りから少し路地に入ったところにある喫茶店『コーヒーラウンジ ジョイ』に決めた。

コーヒーラウンジ ジョイの写真です

入口の外にいきなり麻雀のテーブル筐体がポツンと置かれている。店内が満席のときや天気のいい日などはテラス席として使うこともありそうだ。店内は全席禁煙で、喫煙室は設置されているがやはりコーヒーを飲みながら煙草を喫いたい人にも重宝されてそう。

入って店内を眺めると結構な広さ。奥の仕切りの向こう側にテーブル筐体がチラ見えしていた。しかし、ちょうどお昼すぎということもありその手前の席しか空いていなかった。
タイミングよくテーブル筐体に案内されるかどうかもやはり運次第。今日は残念だったがまたここに来る理由にはなるかーと思い直し、普通の席につく。

さっきは朝ご飯として小さいホッドドッグを2個食べただけなので、今度はお昼ごはんでガッツリいってもおなか的には問題なさそうだ。
パスタかポークジンジャー、ヒレカツ丼もいいな。どうやらランチメニュー以外だと提供に時間がかかるかもしれないとのこと。
熟考に熟考を重ねて選んだのは日替わりの「ビーフシチュー弁当」。
幕の内弁当風に仕切られた一番メインのところにビーフシチューが盛られ、小鉢にポテサラ、山くらげ、たくあん。それに味噌汁とデザートにオレンジという布陣だ。
弁当箱に入れたビーフシチューを供されるのは初めてかもしれない。これもお昼時の忙しさを少しでも緩和するための作戦といったところだろう。

コーヒーラウンジ ジョイ店内の写真です

小鉢惣菜は箸休めのようなので、自然とビーフシチューをおかずにご飯を食べるスタイルに収束していくことになる。“シチューにライスありやなしや論争”を引き起こしかねない危うさもあるが、“クリームシチューはダメだけどビーフシチューはアリ”論者や“シチューとライス別皿”主義者、“結局食ってしまえば一緒”教信者など様々な主張を傾聴してるフリをしながら結局好きに楽しむのが一番だ。私は“俺は自由に食う。お前も好きなように食え”を掲げている。

まぁそんなことはどうでもよくなるくらいこのビーフシチューは美味い。コクと香りはしっかり本格のそれであり、牛肉も柔らかい大ぶりのものがゴロゴロと入っている。これとご飯さえあればたくあんとか山くらげを間に挟む余地がないくらいだ。喫茶店のビーフシチューを侮るなかれ。
日本人はともかく、インバウンドの観光客はこの組み合わせをどう感じるんだろう。ハヤシライスも最初はなんか違和感というか物足りなさがあったもんな……などと考えながら食べていると、奥の席にいたお客さんが続々と帰りはじめた。

ひょいと仕切りの向こう側を見る。視界にあるテーブル筐体は……全部で6台。フルサイズの白い筐体が1台に、インストが片側1枚しか入らない左右尺がコンパクトなタイプが5台という構成だ。そういえば外に置かれた筐体も短尺だった。
遠目に見えるインストは『麻雀かぐや姫 其の弐』(三木商事・日本物産/1989)『麻雀雷神牌』(ダイナックス/1996)、あとは8ライン機のもののようだ。稼働するかどうかはここからはわからない。動くにしても平日のお客さんが少なめの時間帯に限定されているのではないだろうか。いや、平日でもひっきりなしに人が訪れるようになっていたなら無理に稼働する必要がないのかもしれない。

コーヒーラウンジ ジョイ店内の写真その2です

いずれにせよテーブル筐体6台がズラリと並ぶ様はなかなか壮観。
ビーフシチュー弁当もオススメで、浅草の喧騒に疲れたら休憩に寄っていただきたいナイスな喫茶店だ。

さて、今回はここまで。次回も浅草編の予定です。
さすがに1日ではすべての店を廻りきれないので近々平日のどこかにまた、浅草をブラリしてきます。

浅草の風景その2です

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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