東京都西多摩郡瑞穂町。
JR八王子駅から八高線に乗り、昭島市をかすめ福生市をすり抜け、やってきました西多摩郡。
南側にある米軍横田基地にまたがる形で武蔵村山市、福生市、羽村市と接し、北側は青梅市と埼玉県入間市に隣接するという小さいわりにいろんな境目が入り組んだ過密地帯が瑞穂町だ。
地図をよーく見ると、ちょいと離れた所沢市の一部までもが接していることがわかり、県境・市境ファンとしては大いに興奮せざるを得ない。
そんな瑞穂町唯一の鉄道駅・箱根ヶ崎駅前はのんびりムードが漂い、とても落ち着く。
大都会の雑踏にすっかり飽き飽きしどんどん郊外へと足を伸ばし続け、東京23区から“市”へ、さらに“郡”にまで来るようになってしまった。
歳をとると田舎に引っ越しはじめるというが、いまではその気持ちがよくわかる。
ちなみに“箱根ヶ崎”は箱根山の山岳信仰に由来する箱根権現から取られた地名であり、皆さんご存知のあの“箱根”と関わりがあるという。なんでもミナモトのナニガシが奥州征伐の折りにお告げがどうのこうの……ということらしいので詳しく知りたい方はどうぞ調べてみてください。
時刻は午前11時。箱根ヶ崎駅東口ロータリーを抜け道を渡った路地に入ってすぐの場所に、見た目は普通の民家のラーメン屋がある。
ちょうど暖簾をかけているところで、こちらに気づいたおばあちゃんがにこやかに招き入れてくれた。
『手打中華そば 松屋』。創業は1947年という老舗だ。1947年というと日本国憲法が施行された年であり、戦後の混沌とした日本が近代国家としてのスタートを切ったのと同時に中華そばを売り出したことになる。
壁に貼られたメニューには、“中華そば”と“冷やし中華そば”と“チャーシューメン”の三種しかなく、ほとんど迷うことなくチャーシューメンを選んでしまう。
さすがに建物は創業当時のままではないだろうが、昭和で時がピタリと止まっている。厨房では2人のおばあちゃんが、昨日どこそこへ行ったの、誰それとばったり出会ったのと楽しそうにおしゃべりをしながら調理をしている。
BGMもないシンと静かな中に屈託ない笑い声が聞こえてくる雰囲気、たまらなくよい。
しばらくして運ばれてきたチャーシューメンには、フチが紅く脂身の少ないロース焼豚が5枚ほど。さらにわかめ、海苔、刻んだネギにナルトという古式ゆかしいスタイル。スープの表面にはまったく油脂が浮かんでいない。
一口すすってみると昆布系の出汁と優しい醤油の風味が渾然一体となってノドを滑り落ちていく。
麺は平中太で不規則にうねっているのが見てとれた。
この太さもまちまちな手打ち麺が予測もつかない感触を残しつつ唇を通過していく快感に思わずうっとり。
専門店で食べる研究され尽くした一杯もいいが、長年その様相を変えずに淡々と提供され続けた一杯もまた尊い。ラーメンの懐の広さを改めて実感させてくれるチャーシューメンを心ゆくまで堪能し、スープまでしっかり飲み干した。
元気な「ありがとうございました~」の声に送られて暖簾をくぐる。
夏になったら冷やし中華そばを食べに来ないとだ。んーでも結局はチャーシューメンを頼んじゃいそうな気もする……と早くも次回来訪を考えながら、路地のさらに奥へと進んでいく。
今日のゲーム目的地はというと、ズバリ『DRAMA 瑞穂店』だ。
“DRAMA”はDVDやCD、ゲーム、古着などのリユース事業とアニメキャラクターコラボなどを行なう飲食事業、そしてゲームセンターを運営するアミューズメント事業を柱とする企業、株式会社ドラマが手掛けるブランドだ。
ここの店舗の特徴は、クレーンゲームやメダル機を数多く並べる郊外型の大型遊戯施設。そのため、巨大なゲームセンターに興奮するという性癖を持つ私の心を掴んで離さなかったのだが、昨年11月にこのアミューズメント施設運営事業を、GiGOを擁する株式会社GENDA GiGO Entertainmentが継承することが電撃発表された。
そして今年2月に実施された事業継承により、アミューズメント施設“DRAMA”のうち、八王子高倉店、下北沢Part1店、下北沢Part2店、下北沢Part4店、藤沢店、港北インター店、足利店の7店舗が正式にGiGOの傘下に入ることとなったのだった。
DRAMA全8店舗のうち、実に7店舗が出ていってしまったということになる。
そしてなぜか唯一残された店舗が、これから行こうとしている『DRAMA 瑞穂店』というワケだ。
ドラマ本社は東京世田谷にあり、ここが企業としての地元ということでもない。下北沢店を除き、郊外の街道沿いに店舗を構えてやってきた中で、なぜ瑞穂店だけが残留することになったのか。どうにもその点が引っかかり、はるばるやってきたのだった。
たぶん行ったところでなにもわからないとは思うのだが、その点はそんな真面目に捉えないでいただきたい。
要はなんかしら理由を付けてゲーセンに行きたいだけなのだ。
倉庫のような大きな店舗をあちこち眺めてから中に入ると、ゲーセン独特の喧騒がワッと耳に流れ込んでくる。この瞬間がたまらなく好きという人も結構いるのではないだろうか。
静かなゲームセンターというのは思った以上に味気ないが、それはそれでまた違った趣がある。さっき食べたラーメンのように楽しみ方はそれぞれということかもしれない。
デカいゲーセンが好きと申し上げたが、実はクレーンゲームとコインゲームにはあまり興味がない。やはり気になるのはビデオゲームなので、まずは店内を一周して調査してみることにした。
入って正面には各種クレーンゲームが並んでおり、やはり人気が高い。左手は奥の方までびっしりとコインゲームが取り揃えられている。大型機からシングル機まで渡り歩いてじっくり1日遊ぶ人も多いことだろう。
入口から右手に進むと音ゲーがあり、格ゲーやドライブゲーム、カードゲームなどのビデオゲームも稼働している。
そこには数台のエアロシティ筐体もあり、『アルカノイド』(タイトー/1986)『沙羅曼蛇』(コナミ/1986)『天地を喰らうⅡ』(カプコン/1992)『源平討魔伝』(ナムコ/1986)『パロディウスだ! ~神話からお笑いへ~』(コナミ/1990)など時代を彩った名作がずらりと並んでいた。
さらに奥の方には、大型ゲームセンターではちょっと珍しい駄菓子屋ミニアップライト筐体も4台置かれている。お馴染みのオレンジ色がなんとも可愛らしく、懐かしさを醸し出す。
入っているのは『マリオブラザーズ』(任天堂/1983)『ナムコクラシックコレクションVol.2』(ナムコ/1996)『テトリス ザ・グランドマスター』(カプコン・アリカ/1998)『熱血高校ドッジボール部』(テクノスジャパン/1987)というなかなかの通好みラインナップ。
よくよく見ればコンパネには『レトロPC・ゲーム専門店BEEP』のシールが。いつもお世話になっております。
駄菓子屋ミニアップライトが置かれたDRAMA……でピンとくる方もおられるかもしれない。そう、神奈川県相模原市のイオン相模原ショッピングセンター内にあった「DRAMA イオン相模原店」に置かれていたのと同一のモノだ。
2024年9月をもって閉店となったイオン相模原店はオープン時からレトロゲームが稼働するという珍しいお店だった。ショッピングセンター内のゲームコーナーはメインを子供向けにラインナップし、クレーンゲームでカップルとファミリーを、コインゲームで暇をつぶすお父さんらをターゲットにするのが常道だ。しかし相模原のイオンの中には他にも2箇所のゲームコーナーが存在したため、差別化の意味もあったのだろうか。『ターボアウトラン』(セガ/1989)『リッジレーサー』(ナムコ/1993)『タイムクライシスⅡ』(ナムコ/1998)などを置くという大胆な勝負に出た。訪問するたびにゲームのラインナップは少しづつ変化していって、ある時このオレンジ色のミニアップライト筐体がお目見えした。
個人的には大歓迎で自宅からも行きやすいこともありよく訪れていたのだけど、正直ビデオゲームをプレイする人は本当に少なかったように見えた。「太鼓の達人」には結構客がついていたのだが、テーブル筐体はいつでも閑古鳥が鳴いていた。
なんとなくざわざわした予感が的中して閉店の報せが舞い込んできた際も、来るべき時が来てしまったかとどこか冷静に受け止めた。
ショッピングセンターのゲームコーナーなのに最後までテーブル筐体に入っていたのが『フォゾン』(ナムコ/1983)とか、やはりどう考えてもロック過ぎる。その真意は測りかねたものの最後までイカれた姿勢を崩さなかった店舗運営には感服する面もあり心のなかで拍手を送ったものだ。
そんなDRAMAイオン相模原店の閉店後に、ミニアップライトが瑞穂店に移籍したことをSNSで知った。なんというか、ほっと胸を撫で下ろす心地がした。
たぶんあっちのゲーセンでもちょっと浮いた存在にはなるんだろうなと思ったが、それはきっとどこのゲーセンであっても似たようなものだ。それでも、貴重な店舗スペースを割いてでも置きたいと思ってくれる経営者やスタッフの心意気に感謝の意を示したい。
その“意地”と“プライド”をしっかり受け取るために、ビデオゲームがあるゲームセンターならどこにだって行きたいと思っている。ある種の“祈り”を持って訪れる姿はもはやゲーセン巡礼なのかもしれない。
まぁ巡礼するだけで終わっては意味がないので、一発なにかプレイしていくかと100円を握りしめて「パロディウスだ!」の前に立った……が、コンパネをよく見るとボタンが1個しかついてない。言うまでもなく「パロディウスだ!」はショット、ミサイル、パワーアップの3ボタン……。
いや待て。
オートパワーアップモードなら確かに1ボタンだけど……ひょっとしてオートパワーアップ専用台とか?
100円2クレジット設定なのでダメ元で試してみるかーとオートパワーアップでスタートしてみたら、ショットが出ない。やはりコンパネ、ミスってるじゃん!
巡回していた店員さんにこのことを話すと平謝りされる。早めに修正した方がいいですよね~と苦笑い混じりに伝えそそくさとその場を離れた。そうと知らずに誰かが100円を投入してしまったら、またクレームが来てしまうので電源だけでも切っておくべきだろう。
その後、コインゲームなどをグルっと眺めて戻ってみたら、なんともう3ボタンに直っていた。実に素早い対応。店員さんナイスジョブ。
予想していた通りというか、あたりまえではあるが、なぜDRAMA瑞穂店だけが移籍せず残留となったのか、理由は皆目わからなかった。
しかし、ビデオゲームは続投されさらにリソースが一箇所に集まることでパワーアップも果たしている。店員さんのスキルも高そうだし、これまで別の店舗にあったレトロゲームも期待できるのだろうか。
いや、まずはGiGOに所属を移した店舗の状況も確認しに行く必要がありそうだ。藤沢店とか足利店もなかなかのラインナップだったし。
よし、なんだか興奮してきたな。
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