大阪府大阪市北区梅田。
兵庫県尼崎市の『栄町銭湯』、大阪市福島区の『龍美温泉』と銭湯二連発ですっかり茹で上がってしまった。龍美温泉から阪神本線の野田駅までグニャグニャのフラフラで歩き、そこから列車で大阪梅田駅までやってきた。
じわじわと蓄積した疲労がお風呂に入ったことでドッと出てくるのを感じているし、本来であればまず宿にチェックインして態勢を整えてから夜の梅田の街に繰り出すべきだろう。しかし、そうもいかない事情があるのだ。
とりあえず梅田には行っておきたいゲームスポットが数か所ほどあるので、だいぶお疲れではあるが行ってみることにしよう。あー、荷物が重い。
まずは阪神大阪梅田駅からほど近い位置にあるKITTE大阪。日本郵政の子会社である日本郵政不動産が展開している巨大ターミナル駅近商業施設“KITTE”は東京丸の内、福岡博多、愛知名古屋を制覇し、今年7月に大阪梅田店が開業したばかりだ。
その6階にある『GiGO Arcade Cafe』は、アミューズメント施設大手のGENDA GiGO Entertainmentが手掛ける「飲みながら、食べながら、遊びながらが新しい!」をコンセプトにした新業態。ダーツやエアホッケー、ビデオゲームなどを楽しみながらお酒が飲める、いわゆる“ゲームバー”だ。
そもそも“ビデオゲーム”と“バー”は最初期から近しい関係にあった。ビデオゲームの父と呼ばれるノーラン・ブッシュネルが手がけた最初のアーケードゲーム「コンピュータースペース」(1971)はスタンフォード大学近くのバー「Dutch Goose(ダッチグース)」でロケテストが行われていたのだ。「ポン」(1972)以降、80年代初頭までアタリも新作ロケテストをバーの客を相手に行っていたという。ダーツやピンボールなどに代わる新たな酔客の遊戯として、ビデオゲームに白羽の矢が立った時代が確かにあった。
時代は移り変わり、2000年代に入ると最新ゲーム機ではなくレトロゲームを置くバーが登場する。その代表格がニューヨークのブルックリンに店を構えた「BARCADE(バーケード)」だ。当初は懐かしさもあって、置かれたゲームをリアルタイムで楽しんだ中年層が来店したというが、次第に若い世代の客も増えていったそうだ。シンプルに熱中できるゲームに世代など関係ない。
現在の日本では風俗営業法の高い壁に阻まれている“飲食+アーケードゲーム”。業界大手がこのジャンルに風穴を開けることができるのかに注目したい。できれば、時代にそぐわなくなってきている風営法も、業界が一丸となって改正させることができればアミューズメント新時代も夢ではないのではと願わずにはいられない。
『GiGO Arcade Cafe』には、「スターウォーズ」「ロード・オブ・ザ・リング」などのピンボール、6台あるテーブル筐体では「エイリアンVSプレデター」「極上パロディウス」「イチダントアール」「メタルスラッグ2」「上海」が稼働していた。さらに今年の夏から稼働を開始した中国のレオンアミューズメント製ガンシューティングゲーム「TOP SHOOTING」(日本代理店はバンダイナムコテクニカ)があるのも見逃せない。
ただ見た感じ、一人客がゲームしながら飲んだり食ったりするのはなかなかにハードルが高そう。場所柄仕方ないのだが、一人客でも気軽に立ち寄れるようなコンパクトな店舗もぜひ作っていただきたい。
次なる目的地に向かうためにKITTE大阪から梅田の地下に潜るが、再開発により地下の様相がすっかり変化して完全に現在地を見失ってしまった。スマホの地図には地下マップは表示されないため右往左往し、しまいには一旦地上に出てから再度地下に潜ったりしながら、ようやく大阪駅前第3ビルまでたどり着く。
この地下一階にあるのが『TVゲーム ロイヤル』だ。“レトロゲーム専門店”を謳う、大阪を代表する昔ながらのゲームセンターで、メンテナンスやゲームの設定など客本位のホスピタリティも素晴らしい。タイトル数も非常に豊富で、長時間いても全く飽きずに楽しめるのが嬉しい。
梅田にある大阪駅前ビルは第1ビルから第4ビルまでの4棟があり、かつては各ビルの地下にゲームセンターが群雄割拠していた。「ニューウメダ」「ZERO」「ビデオシティ リノ」など、最盛期には15店を超えるゲーセンが日夜シノギを削っていたという。1980年前半には第4ビルにコナミ本社があったり、ゲームメーカー直営店「チルコポルト」「ハイテクランドセガ」「プレイシティキャロット」が入居するなど、大阪ビデオゲームシーンの中心的エリアというのが他県から見た印象だった。
初めて大阪駅前ビルを訪れたのは90年代だったが、あの頃の怪しいほどの魔窟感がいまだに忘れられない。東京で言えば新橋駅前にあるニュー新橋ビルの雰囲気とちょっと似ているかもしれない。この大阪駅前ビル界隈と近鉄長瀬駅にあったゲームセンター「あうとばあん」は、90年代においてすでにレトロアーケードゲームを全面に押し出していたのだから「大阪すげぇ…」と思わず唸らされたものだ。
現在ビル内のゲームセンターは、『ロイヤル』と「GiGO 大阪第4ビル」(旧・ハイテクランドセガ)を残すのみとなってしまったが、何かの拍子にまたこのあたりがレトロゲームで盛り上がりそうな予感がする。全く根拠はないけど。
そんなことをボンヤリ考えながら徘徊していると時刻は19時を回り、少しお腹が空いてきた。せっかくなのでなにか大阪っぽいものを食べたいのだが、その前にどうしてもやっておきたいことがあった。
本連載「ゲームある紀行」の第25回と第26回で取り上げたセガの「トイレッツ」がかつて設置されていたとされる「一軒め酒場 お初天神店」の男子トイレにまだ現存するかどうかを目視で確認するというミッションだ。いや、別にそんなことをする必要はどこにもなく、もちろん誰かに強制されているわけでもないのだが、可能性を知ってしまった以上は念の為であってもチェックしてスッキリしたい。我ながら非常に難儀な性格。
結論を言ってしまえば、もう影も形もなかった。
スッキリはしたが、大阪まで来て何をやっているのかという虚しさも味わい、小一時間ほどでサワー一杯を飲み干してからお会計を済ませた。
一軒め酒場のある曾根崎のすぐ隣の兎我野町も、大阪市北区有数の歓楽街として知られている。その裏通りにある一軒のラブホテル。おあつらえ向きに人通りが少なめの路地で時計をチラチラ確認しながら、ちょうど20時になったところで入口から速やかに入店する。
ラブホテルにある例のランプの付いた部屋のボタンを押すパネルをチラリと一瞥してから、その奥の受付に直接声をかける。
「すみません……203号室に一人で泊まりたいのですが空いてますか」
すると受付のお姉さんは何かを察したように、「いま清掃中なのでそちらでお待ちいただけますか?」と言うので待機スペースで暫し待つことに。その間にもカップルが続々と来店してくるが、こちらからもあちらからも姿は見えないよく出来た構造になっているので安心。こちらは見られても一向に構わないが、あちらはできれば見られたくはないだろうし。
しばらくすると203号室の鍵が渡されたので、誰にも会わないように注意を払いながらスニーキングミッションのごとく2階へと急ぐ。鍵穴にキーを差し込み音も立てずに素早く室内へと滑り込んだ。おっさんの単独ラブホミッションはこの緊張感がたまらない。
重い荷物をソファにおろし、汗だくの服を着替えてようやく一息つく。やれやれ、どうにか今日の宿を確保することができた。
このラブホテル『ラヴィアンソフト 梅田』は宿泊予約も可能なのだが部屋の指定ができないため、下手をすれば満室のリスクを覚悟の上で予約せずにやってきた。宿泊が可能になる時間は午後8時からなので、そこにピッタリ合わせる綿密な時間調整を行ってきたというワケだ。
そうまでしてこのラブホテルに泊まりたかった理由が、こちら。
203号室に常設された「ゼビウス」だ。
純正基板でもコピー基板でもなくアーケードのエミュレータ機ではあるが、モニターをわざわざ縦置きにし、コンパネもアストロシティ風にしてオリジナル筐体を作り上げている。本体部分はテーブル内に格納して客が開けられないよう鍵がかけられているようだ。
右前方に設置された電源ボタンをオンにしてしばらく待つ。モニター右側にはプレイマナーについて書かれ、左側には遊び方の説明やキャラクター紹介までされているのはなかなかに芸が細かい。キャラがファミコン版とアーケード版が混在していたり、“ソルバルウ”が“ソルバウル“だったり、“タルケン”が“タルケル”だったりするのはご愛嬌。「地球をすくいだせ!!」というこの上なくざっくりしたキャッチコピーもコク深いではないか。
立ち上がった「ゼビウス」は縦画面なので思ったよりも画面が広く感じる。そしてクレジットボタンを押してからスタートボタンを押すという手順がアーケード感をぐっと高めてくれる。
ラブホテルが顧客獲得のためにサービス合戦を繰り広げてきた中でゲーム機を設置してきた例は数多い。しかしほとんどはファミコンなどの家庭用ゲーム機だったハズだ。こうしてアーケード版の「ゼビウス」をプレイできるのはなかなかに感慨深いものがある。
ラブホテルの部屋に響き渡るお馴染みの曲とザッパー、ブラスター音。実にシュールな光景だ。もしカップルでこの部屋に入ったらどのような展開になるのだろう。レトロゲーム好きカップルであれば特に問題はないが、彼氏もしくは彼女の一方だけがゲーム好きだったら、最初のアンドアジェネシスに到達する前に「なんでゲームなんかしてるの!?」と軽く揉めてしまうのではないだろうか。「ゼビウス」ガチ勢だった場合はより深刻で、もし一千万点を目指しはじめてしまったら、5時間程度は相手を放置することになる。まず間違いなく別れるハメになるだろう。
そんな“ゲーム破局”を避けたい方のために、『ラヴィアンソフト 梅田』302号室には「ハイパーオリンピック」を用意している。これなら2人同時プレイで盛り上がること間違いなし。
また、202号室では「ナムコクラシックコレクションVol.2」がプレイできるのでパックマン・アレンジメント、ディグダグ・アレンジメントでハッスルできそうだ。
ほかにも、206号室には「ギャラクシアン」が、502号室には「スーパーマリオブラザーズ」があるらしい。いったいどの層に向けたサービスなのかやや疑問ではあるが、東京からわざわざ泊まりに来る私のような変わり者がそれなりにいるに違いない。
ひとしきり「ゼビウス」を堪能し、少し休憩したら体力が戻りお腹も減ってきた。ここはラブホテルだが宿泊では一時外出ができるというのもありがたい。公式サイトにはクーポンがあり、それを利用することで結構お得に泊まることもできるのでチェックしておいたほうがいいだろう。昨今、大都市圏ではホテル宿泊代の値上げが著しいが、ここなら下手なビジネスホテルより安い。
……あ、そうだ。明日のホテルをどこか予約しなきゃいけなかった。
もし今日ここに泊まれなかった時は、翌日も再チャレンジするつもりだったので、明日の宿泊予約もしていなかったのだ。
ところが、明日は土曜日ということもあり目を付けていたカプセルホテルはどこも軒並み満室。範囲を広げて検索してみたが結果は同じだった。うーん、こうなったら別の案を……とひとまずは宿の確保を諦め、食事のために外に出た。
なにか大阪らしいものを食べようと考えていたのだが、紆余曲折あって博多豚骨ラーメンを食べてしまった。旅というのは何事も予定通りにはいかないものである。
予定通りにいかないと言えば、この関西遠征編も3回くらいでまとめようと当初は思っていたのだが、予想外に長くなってしまった。次回はこの旅の真の目的が明らかになるのだが、本当に大したことではないので特に期待せずのんびりお待ちいただければ。
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