【第36回】大阪府豊中市「ダイエー曽根店」~兵庫県尼崎市『喫茶ミロス』など

大阪市淀川区西中島。

新大阪駅です

少しでも新幹線代を浮かせたくて、朝7時東京発の“ぷらっとこだま”で新大阪駅までやってきた。東京-新大阪間は新幹線のぞみで約2時間15分、ひかりが2時間50分ほどの所要時間であるのに対し、こだまだとなんと4時間もかかる。それであっても5000円弱ほども値段が違うのは非常に大きいのだ。そんな具合で、新大阪駅ですでにひと仕事終えた感すらあるが、時間はまだ11時。今日想定している行程はギュッと詰まっているので速やかに移動を開始する。

ダイエー曽根店です

いったん、新大阪駅を出て少し歩き阪急宝塚線に乗り、やってきたのは大阪府豊中市にある曽根駅。駅前にそびえ立つのが『ダイエー 曽根店』だ。
古き良き雰囲気を今に残すスーパーで、特に6階の専門店街フロアにある飲食店は本物のみが醸し出す空気感に満ちており実にシビれる。そのフロアの一角にはちょっとしたゲームコーナーもあって「タイムクライシス4」(ナムコ/2006)、「GTI Club Supermini Festa!」(コナミ/2008)といったタイトルが稼働していた。

ゲームマシンの写真です

ゲームコーナーとレストラン街をぐるぐる回り写真を撮りまくっていたら、ちょうどお昼時ということもありお腹が空いてきた。どのお店で何をいただくか、じっくり吟味することにしよう。できれば全てのお店入って食べたいくらいなのだが、それだけの胃の容量を持ち合わせていないのが無念だ。
今の気分と外に貼られたメニューとで検討を繰り返し、ふと目に止まった料理に惹かれて、中華レストラン『若水』に入る。店内もいい具合に時を止めており、壁の飾りや照明の傘などひとつひとつに懐かしさが溢れていた。

レストラン若水の写真です

注文を済ませ、お冷でほっと一息。ここダイエー 曽根店はいまでは貴重な80年代ダイエーの空気を漂わせる店舗として、その筋のファンの間で親しまれている。私の母は80年代にダイエーでパートをしていたことがあり、私自身もダイエーに対してなにかひとかたならぬ思いを抱いているように感じていた。

このお店があるエリアは、“西の芦屋、東の曽根”と並び称されるほどの高級住宅街として発展し、昭和初期にはかの北大路魯山人にゆかりの料亭“大阪星ヶ岡茶寮”があったという。漫画「美味しんぼ」で海原雄山が主催した「美食倶楽部」のモデル舞台になった料亭だ。魯山人が美食倶楽部を発足したのは東京・永田町の“星ヶ岡茶寮”なので正確には違うのだが、とにかくこのダイエー曽根店がある場所が大阪星ヶ岡茶寮の一部にかかっているのだそう。

天丼の写真です

ほどなく到着したのはエビ天定食。ふっくらと白いコロモをまとったエビの天ぷらがなんと6尾も並んでいる。シンプルだがその存在感に思わず圧倒される。添えられたゴマ塩を付けて齧ってみると、ふわっとしたコロモとプリッと海老の食感が不思議な味わいを生み出している。サクッとした天ぷらというよりはフリッターに近いかも。これが中華技法の天ぷらなのだろうか。味が淡白なので、ソース、醤油などいろいろと試してみるのも楽しい。大阪での一食目だけど大阪とあまり関係ないチョイスだったなと思ったりもしたが、美食家・魯山人ゆかりの地という雰囲気も存分に感じつつ、美味しくいただいた。

少し前からSNSなどでダイエー 曽根店が閉店するかも、という未確認情報が流れてきていた。調べた人によると、2025年のおせち料理予約とその店頭受け渡しが実施されるそうなので、とりあえず年内営業くらいは乗り越えそうではある。新設の図書館候補地だというが、昨今の尋常ではない建材費の高騰もあるので、計画延期となる可能性もあるなと思った。ともあれ、閉店が噂されている10月にタイミングよく訪問出来たのは僥倖だったといえる。

ダイエーをあとにして、次なる目的地へと徒歩で向かう。地図上では、どうにか歩けるような、結構距離があるような微妙な距離に見えた。土地勘のない場所での過信は禁物なのだが体力的には十分だし、今日は10月にしては少し暑いくらいのいい天気。軽く歩いて自分の体調を計ってみるのも悪くない。

ジャンボジェット機の写真です

曽根駅から西にしばらく進むと猪名川がある。そのすぐ北側にあるのが大阪国際空港(伊丹空港)だ。滑走路の角度がちょうど斜めに曽根側に向いており、着陸態勢に入った旅客機が恐ろしいほどの低高度で侵入していく様子が何度も見られた。この近辺を地図で見るとわかるが空港の周囲はすぐ住宅地が広がっており、今にしてみるとかなり強引に作られた立地であることが見て取れた。

民家の写真です

45分ほどのんびり歩き、大阪府豊中市上津島という住所のあたりまでやってきた。すぐ脇を阪神高速11号池田線が通っている何の変哲もない普通の住宅地だ。こんなところにいったい何があるのかと言えば、コレである。

銘板の写真です

普通の住宅の玄関入口脇に掲げられた木板には黒ぐろと“コナミ創業の地”と書かれている。

そう、ここは1969年にコナミを興した上月景正の実家であり、のちに世界的なゲームメーカーとしてその名を轟かせることになるコナミが産声を上げた場所なのだ。
アミューズメント機器を扱うコナミ工業株式会社となって以降は、本社を各地に移転しているが、その原点はこの地にあった。どう見てもただのこぢんまりとした雨戸の閉まった民家ではあるが、わざわざこうして看板を掲げているのは、立志伝中の人物である現・名誉会長の初心を忘れまいとする気持ちの現れではないか。
そして我々のようにビデオゲームをこよなく愛する者にとってここは聖地と言ってもいいだろう。この地無くして「グラディウス」も「ときめきメモリアル」も無し。そんな感動に身を震わせつつも、不審者さながらにいろんな角度から写真を撮りまくるのであった。あまり長居して職務質問されるわけにもいかないので、しっかり拝んだところで次に進むことにしよう。

猪名川の写真です

猪名川を渡ればそこはもう兵庫県尼崎市だ。県境・市境に目がないので橋の上を意味もなく行ったり来たりしてから阪急神戸線の園田駅の方に向かった。20分ほどで園田駅に到着すると、すぐ駅前にある喫茶店に入る。どっしりとした3階建ての建物は1階が喫茶店、2階が雀荘で長らく固定されているようだ。『喫茶ミロス』という、夜にはカラオケスナックになるらしいその喫茶店の雰囲気は、見事なまでのザ・昭和。ランチを食べながらテレビで西部劇を眺めている常連と思しき数名の先輩方が先客でいた。

喫茶店内の写真です

大阪で喫茶店といえば注文はミックスジュースでキマリだ。濁った白色で少し泡立っており、ストローで一口飲んでみるといくつかのフルーツの風味が頭をかすめていく。お店によって使っている果物の種類が異なっており、ミックスされたすべての原材料を当てるのは至難の業だ。最終的に答え合わせはしないとわかっているのに頭の片隅で果物を思い浮かべていくのがまた楽しい。そしてここまで1時間ほど歩いて疲れた体に、ちょうどいい甘味がじんわりと染み込んでくる。東京でももっと積極的に提供してほしい喫茶店メニューの一つだ。

私が座った席からはランチに夢中の先輩で隠れているが、時折テーブル筐体がチラ見えしていた。どうやら奥の方に2台、どちらも麻雀コンパネのよう。さて、どうやって確認しようか。いつもの“トイレ作戦”もいいのだが、正直立って歩いてトイレに行くのすらダルいくらいに足が疲れていた。10月も下旬に差し掛かろうというのに半袖Tシャツ一枚で十分で、その上大量の汗までかくとはどういう気候だ。まぁ、お会計の時に確認して事情を説明してから写真を撮らせてもらえばいいか……と開き直り、しばらくグッタリする。
ところが長期戦を想定していたこちらの思惑とは裏腹に、あれよあれよという間にお客さんがひとりまたひとりと帰っていった。店員さんの動きにも、どうも店じまい感がうっすら見えはじめたので、テーブルの食器を片付けに来た店員さんに営業時間を聞いてみると、14時だという。確かお店に入ったのが13時45分。あぶねぇ! 閉店時間ギリギリだったか。

テーブル筐体の写真その1です

いやー14時閉店だったんですね、こりゃ申し訳ない! などとヘラヘラしながらもできるだけフレンドリーさを強調しつつ、会計をしながらインストカードをさりげなく確認。なんと2台ともが「スーパーリアル麻雀PⅣ」(セタ/1993)。
セタとサミーとビスコで共同開発した32bit基板「システムSSV」第1弾で、「PⅡ」「PⅢ」と進化させてきた脱衣アニメの動きをさらにパワーアップさせた一作だ。長女・香織、次女・悠、三女・愛菜の三姉妹は人気を博し、家庭用ゲーム機への移植が行われはじめたのもこの頃だ。1993年12月にはPCエンジン SUPER CD-ROM2で「スーパーリアル麻雀PIVカスタム」(ナグザット)が、1994年3月にはスーパーファミコンで「スーパーリアル麻雀PIV」(セタ)が発売され、「え、脱衣麻雀とか家庭用でもイケるんスか?」と、情けなくも興奮したものである。
そんな「PⅣ」が2台も入ってるとは、なにかよっぽどの事情があるに違いないと踏んだが、さすがに理由を聞く勇気はない。写真だけを撮らせてもらって引き上げることにした。最後にふと「これは動くんですか?」と聞いたところ、「動きますよ~」とのことだったので、お近くにお住まいの方はぜひ三姉妹を征服しに行っていただきたい。

テーブル筐体の写真その2です

どうしてもこういう目的の旅は数をこなしがちな忙しない展開が続くことになる。あまり好みではないが、関西など頻繁に来れるはずもないのでやむを得ない。続いての目的地は、横に走る3本の鉄道路線を縦に移動せねばならない。こういう構図の場所はだいたいバスで縦に結ばれているハズ……と思ったらやっぱりあった。一旦JR宝塚線の尼崎駅を経由してから、阪神本線の杭瀬駅まで向かうバスに乗り込んだ。

さて、旅の1日目のまだ中盤なのだが、このままの調子で1日分の出来事を書いていくと相当な量になる。読んでいる方も終いには飽きてしまうと思うので、今回はひとまずここまでとしたい。
そもそもなぜ急に関西旅行に行くことになったのかという理由も含め、また次回以降に続きますので、どうぞお楽しみに。

 

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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