【第7回】ツンドラ生まれのげっ歯類、その不思議な習性の正体とは──『レミングス』【スーパーファミコン】

時代を問わない普遍の名作ゲームを紹介する連載コラム『髙橋ピョン太のおニューもレトロも』第7回のテーマは、サンソフトから1991年12月18日に発売されたスーパーファミコン版『レミングス』です。

 

サンソフトから発売された移植版『レミングス』。

 

実は世界的に大ヒットした名作パズルゲーム

 

『レミングス』は、1990年代に世界的大ヒットをしたアクションパズルゲームです。元々は、イギリスでパソコンゲームを開発するPsygnosis(シグノシス)が、1991年2月14日にAmigaというパソコン向けに発売した『Lemmings(レミングス)』がオリジナルです。※オリジナルゲームを指すときは、意図的にタイトルを英語表記にしています。

 

スーパーファミコン版『レミングス』は、ゲーム機初の移植版。

 

オリジナルの『Lemmings』発売後、すぐにその年に主要パソコンであるPC/AT互換機、Atari ST、ZX Spectrum、Acorn Archimedesに移植され、米国とヨーロッパ各地で発売されます。また、日本も例外ではなく、年末にはPC-9801版『レミングス』がイマジニアより発売されています。そしてゲーム機初の移植となるスーパーファミコン版もまた、同年に発売されました。この移植の早さが、まさにゲームの面白さや人気の高さを物語っていますよね。

そして、『レミングス』移植の流れは翌年以降も続きます。日本においてはFM-TOWNS、X68000、Macintosh、PCエンジンSUPER CD-ROM2、メガドライブ、セガ・マスターシステム、ゲームギア、ゲームボーイ、3DOへの移植が行われるなど、『レミングス』は当時の現役パソコンや現役ゲーム機のほぼすべてに移植されました。その後もまた、しばらくして2006年にPlayStation Portable、PlayStation 3にも移植されています。このようにゲームの移植面から見ても、『レミングス』は世界中で愛されていたことがわかります。ちなみに海外では、ここに挙げたパソコンやゲーム機以外にも多数移植されています。地味ながらも静かな『レミングス』ブームが世界的に巻き起こったといっても過言ではありません。

さて、では『レミングス』はなぜここまで早い展開で様々な機種に移植されたのでしょう。いくつか要因はあると思いますが、ここで改めて当時を思いだしながら、『レミングス』について振り返り、レトロゲームファンの皆さんに当時の雰囲気についてお伝えできればと思います。

『レミングス』は、レミング(和名タビネズミ)という北極圏のツンドラ地帯に生息する小型のげっ歯類が主人公のパズルゲームです。そうやって聞くと、動物がデフォルメされたかわいいキャラクターのゲームなの? って思いますよね。ところが、そうじゃなかったんです……。

 

ノルウェーレミング。ゲームキャラよりかわいいかも(笑)。iStock.com/Frank Fichtmüller

 

皆さんはレミングという動物は知っていましたか? 実は、オリジナルの『Lemmings』が発売された当時は、レミングという動物を知っている人はそう多くはありませんでした(少なくとも髙橋のまわりでは)。聞けば、レミングは4年周期で個体数が急増するという習性があり、増えすぎると自ら集団行動をし、もっと食料のある場所や大勢で暮らすことができそうな場所に集団で避難するというではありませんか。しかもスカンジナビアには、レミングは大量発生後「集団自殺をする」という伝説が古くからあり、長い間それが信じられていたといいます。というのも、レミングは非常に速いスピードで繁殖する数少ない脊椎動物の一つで、個体数が増えたあとは絶滅寸前まで減少するような極端な習性があったためだと見られています(実際には自殺はしない)。

そんなレミングの驚きの習性がまずは耳に入ってきました。そして、『レミングス』というゲームは、レミングの習性を利用したパズルだという噂(宣伝?)が先行して業界に漏れ伝わってきたのです。この時点で、それってどんなゲームなんだろう? って思いますよね。

そしてPsygnosisというゲーム開発会社は、AmigaやAtari STというパソコンを使ってカッコいいデモを作る会社としても知られていました。当時、一部に熱狂的なファンもいるぐらい話題の企業でした。そんなPsygnosisの新作ゲームがレミングを題材にしたゲームですというだけで、業界では注目されていたんですよね。つまり、最初から妙な期待値があって、ゲームが発売されたときは、「どれどれ?」というような気持ちで皆さん待ち構えていました。

 

動物の習性をゲームを組み込んだアイデアは画期的だった

 

満を持して発売された『Lemmings』は、まさに動物のレミングの習性をモチーフにしたゲームでした。ゲームの内容は、集団で行動をするレミングを出口へと導いてあげて、なるべく多くのレミングを無事に生還させることが目的という、ステージクリア型のパズルゲームでした。

 

画面左上が天井、ここからレミングが登場する。右下の端に売っているのが出口。

 

ゲームがスタートすると、天井の扉が開き、そこから大量のレミングが規則正しいタイミングで1匹ずつ落ちてきます。地面に着地したレミングは、画面の右方向へと歩き出します。次に落ちてきたレミングも同様です。こうしてレミングは、ある法則に従って同じ行動を取ります。

レミングは何もないところでは常に前進し、歩き続けます。前進した先で壁や柱など障害物にぶつかると、今度はそこで方向転換して逆方向に歩き出します。また、歩いている先が水のたまっている場所だったり、火やトラップだったりすると、前進し続けるレミングはそこで死んでしまいます。その先が崖や穴の場合もレミングは前進してしまいますから、当然ですが落下します。このとき、ある程度の高低差は問題ありませんが、一定の距離を過ぎるとレミングは転落死してしまいます。このように、このゲームのレミングたちの習性は、集団でひたすら前進し続けるというのが、大きな特徴です。

『レミングス』の各ステージは、壁や障害物、ときには地形が階層化されていたり、穴だらけだったり、ものすごく高低差のある起伏の激しい地形など、それはもういろいろです。そして、各ステージには、どこかに必ず出口が設けられています。

ゲームは、出口に向かってレミングたちを行進させるだけなんですが、各ステージでレミングがどんな動きをするかは地形や障害物によって異なるため、実際にゲームをスタートさせてみないとその行動はなかなか予測できません。そこが、パズル的要素なんですね。

 

たとえば、こんな地形はだったらどうする?

 

これは、『レミングス』の第1ステージです。レミングが落ちてくる天井の階層と出口の階層は、フロアが異なります。

 

第1ステージから階層が異なっていますが、階層が異なるステージはたくさん出てきます。

 

ゲームは時間が経過すると天井から次々とレミングが出てきますが、この階層の両端はともに壁なので、このフロアではレミングは左右に行ったり来たりするしかできません。

 

すでに天井から出てきたレミングが何もできずに右往左往しています。

 

そこでプレイヤーが介入する番です。

『レミングス』では、プレイヤーはレミング1匹1匹に何らかの作業を行うように指示コマンドを与えることもできます。指示を与えられたレミングは、前進するのをやめてプレイヤーの指示を忠実に守ります。

たとえば、このステージではレミングのある1匹に地面を掘る指示コマンドを与えれば、そのレミングはすぐに地面を掘りだします。

指示は、画面下の指示用の各種アイコンを切り替えてから、画面内を歩いているレミングをクリックします。すると、クリックされたレミングはその場で指示コマンドを実行してくれます。

 

指示を与えられたレミングが画面中央あたりで地面を掘っています。

 

フロアが貫通すると他のレミングも穴から下の階層に降りていきます。

 

ちなみに各種アイコンを説明しておくと、まず一番左の+-はレミングが天井から登場する速度を変えることができるアイコンです。そしてその隣から順にCLIMBER(クライマー)、FLOATER(フローター)、BOMBER(ボンバー)、BLOCKER(ブロッカー)、BUILDER(ビルダー)、BASHER(バッシャー)、MINER(マイナー)、DIGGER(ディガー)という指示コマンドのアイコンになります。最後のアイコンは、全員が自爆するアイコンです。

 

各指示コマンドの内容も説明しておきます。

まず、クライマーはレミングに垂直の壁を登らせたいときに指示するコマンドです。

フローターは、崖など高低差のある地点で指示するとレミングは落下傘を使って降下します。フローターの指示をすると、レミングは高低差があっても転落死せずに着地することができます。

ボンバーは、爆発です。ボンバーを指示されたレミングはカウントダウンを始め、5秒後に爆発してしまいます。自爆してしますが、その爆発で壁や床などに穴をあけることができるため、ときには障害物を破壊することも可能なコマンドです。

ブロッカーは、行き止まりの役割をはたす指示コマンドです。ブロッカーの指示を与えると、レミングはその場で立ち止まって壁となり、それ以降のレミングの歩く方向を反転させることができます。その先にレミングの集団を前進させたくないときに使用します。

ビルダーは、階段を作ります。一度の指示で12段の階段しか作れませんが、階段を作ることであとから来るレミングが高いところに上れるようになったり、水や穴などの障害物をよけて向こう岸に渡せたりすることができるようになります。ちなみに12段以上の階段を作りたいときは、続けてビルダーの指示を与える必要があります。

 

階段のおかげで向こう岸に渡れそうです。ただし、高さにも注意。

 

バッシャーは、水平方向に穴を掘ってほしいときに指示するコマンドです。また、斜め下に掘り進めたいときはマイナーの指示を、真下に掘り進めたいときはディガーの指示をそれぞれ与えます。バッシャー、マイナー、ディガーには、それぞれ掘れない壁や床もありますので気をつけましょう。

 

右方向からしか掘れない障害物もあったりします。

 

最後の全員自爆アイコンは、もはやそのステージがクリアできないとわかったときなど、プレイヤーかげギブアップしたいときに使用する指示コマンドです。

以上が『レミングス』の全指示コマンドなのですが、これらの指示コマンドは各ステージによって使えるものと使用できる回数が決まっています。アイコンの上に表示されている数字がそれを表しているのですが、数字はその指示コマンドを使用できる回数を表しており、数字が表示されていないアイコンは、そのステージでは使用することができないことを意味します。

 

バッシャー指示コマンドしか使えないステージ。

 

つまり、これが『レミングス』がパズルゲームたるゆえんです。各ステージには、登場するレミングの総数とステージクリアに必要なレミングの生還率が設定されており、プレイヤーは使用できる指示コマンドとその回数をうまく活用してレミングを出口へと導き、より多くのレミングを生還させることにチャレンジします。ステージによっては、クリアするためのひらめきが必要であったり、素早い指示力が問われるアクション性が必要だったり、クリア方法がまちまちです。

 

このステージでは、レミングが50匹登場、50%を脱出させればクリア。ちなみに制限時間もあります。

 

全30ステージの『レミングス』は、各ステージにFUN(たわむれ)TRICKY(巧妙)TAXING(つらい)MAYHEM(大混乱)という4段階の難易度が用意されています。またスーパーファミコン版の『レミングス』には、第30ステージのMAYHEM(大混乱)をクリアした人向けにSUNSOFTモードという難易度の高い新たなステージが5ステージ追加されます。

 

難易度の高いSUNSOFTモードに突入。

 

アクション技が必要なステージあり。解き方がなんとなくわかっても、難しい……。

 

対戦モードもあった『レミングス』

 

さらに『レミングス』には2PLAYER GAMEモードも用意されています。2PLAYER GAMEは、対戦モードです。

 

対戦モードは、共通のステージだけど、操作しやすいように画面内を左右に分割表示。

 

対戦モードでは、左右に2分割された画面でお互いにパズルを解いていきます。このモードでは、画面左のプレイヤーは青い服のレミングに指示をして青い旗がなびく出口へとレミングを導き、右のプレイヤーは緑の服のレミングに指示をして緑の旗がなびく出口へとレミングを導き、どちらがより多くのレミングを脱出させることができるかを競います。ちなみに対戦モードでは、それぞれの色のレミングにしか指示を与えることができませんが、相手の色のレミングを自分の出口に誘導させてもポイントとなるため、そうした駆け引きが熱いバトルとなります。

 

対戦モードでは、たくさん脱出させたほうが勝ち。結構、熱くなります。

 

いかがですか? 『レミングス』の魅力は伝わったでしょうか? 今回はスーパーファミコン版『レミングス』をご紹介しましたが、ここまでいろいろなハードウェアに移植されていると、それぞれに思い入れのあるハードウェアで遊べるので、それもまた楽しいですよね。

 

海外ではNES版(ファミコン)の『レミングス』も出ています。

 

ちなみにウィキペディアによれば『レミングス』は、各ハードウェアの移植版すべてを合計すると、実に全世界で約2000万本を売り上げたというのだからすごいですよね。もはやレミングという動物を世界中に知らしめたのもこのゲームの功績といっても過言ではないのではないでしょうか。少なくとも髙橋は、このゲームによってレミングの習性に興味を持ち始め、そしてその習性を長年調べまくる人になってしまいました。

長い間、レミングは集団自殺をするという伝説が信じられ続けてきましたが、世界中でレミングに興味が持たれるようになった結果、その研究も進み実はそうではないということも近年わかってきました。レミングの4年周期の個体数増加サイクルは、当初は増え続けてしまった結果の自然摂理とも考えられてきましたが、現在では、レミングを捕食する動物の個体数、特にオコジョの個体数がレミングの個体数変動に密接に関与している可能性があることを示す証拠が見つかっており、レミングに関連する食物連鎖がそうした周期的変動を起こしているという説も出てきたといいます……。

 

ま、こういう人間の知識欲を刺激するようなゲームがあってもいいと思うんですよね。『レミングス』は、そんなゲームなのです。

 

BEEPの他の記事一覧はこちら

BEEP 読みものページ
VEEP EXTRAマガジン

BEEP ブログ

よろしければシェアお願いします!
著者紹介
髙橋ピョン太

1980年にフリーでパソコン用ゲーム開発を開始。『ボコスカウォーズ』PC-8801版の移植の仕事をきっかけにアスキー専属プログラマーになり、80年代前半~90年代にアスキーのパソコン雑誌『ログイン』の編集者に転向。
その後は、どっぷりと編集につかり、『ログイン』6代目編集長を経て、ゲーム、IT系ライターとなり、現在に至る。Xではレトロなハードやゲームについてつぶやいています。
髙橋ピョン太のX(https://twitter.com/pyonta)

PAGE TOP