【第35回】神奈川県横浜市「相模屋酒店」~神奈川県川崎市「コーヒーショップ ダニエル」など

神奈川県横浜市鶴見区。

鶴見駅前の写真です

前回から引き続き、鶴見駅からスタート。
JR鶴見駅東口と京急鶴見駅西口の間にあるロータリーを挟んで、相対するようにしのぎを削っていた立ち喰いそばの「五味酉」と「ういーん」が昨年相次いで閉店し、このエリアはすっかり意気消沈してしまったように見える。

まぁ、3時間前にたぬきそばをセットで食べてしまっているので、仮に営業していたとしても食べられたかどうかは怪しいところであるが。今日はまだまだ時間がたっぷりあるし、お目当てのお店に行ってランチをゆっくりいただくのがよさそうだ。
それにしても、今日は早起きをしたこともありずいぶん時間が長く感じられる。想定していた場所を数ヶ所回ってもまだ11時台とは得した気分だ。いつもはお昼ごろからダラダラと動き出してお昼ご飯を食べようとすると、もうランチ営業が終わってたりしてガッカリということもしばしば。今後は早起きして朝駆けを心がけてみようかな、などと考えつつ京急鶴見駅を東口側に抜け、旧東海道を南に下りはじめる。

旧東海道を鶴見川沿いに南下したところにある、現在の横浜市立生麦小学校付近で1862年に起きたのが、歴史の教科書にも載っている「生麦事件」だ。
薩摩藩の島津久光の大行列がこのあたりを通過中、馬に乗った4人のイギリス人と遭遇。列を乱された薩摩藩士がその4人を無礼討ちし、1人が死亡するという大事件となってしまう。これをきっかけに薩摩藩と大英帝国艦隊とが激突する薩英戦争が勃発し、3日間で双方結構な死傷者を出す結果となった……という歴史的な事件現場なのだが、今日のところはその少し手前、京急線・花月総持寺駅からほど近い第一京浜沿いの『相模屋酒店』までやってきた。

相模屋酒店の写真です

なんということもない普通の街の酒屋さんなのだが、店頭には一台のミニアップライト筐体がポツンと置かれている。インストラクションカードは、8ラインスロット「エル・ドラド」(DYNA/1991)。駄菓子屋さんの店頭にあるような子どもたちが楽しむタイプのゲームでもないし、第一京浜国道という首都の大動脈のすぐ脇という場違いさも感じる。
じつはミニアップライト筐体が置かれているところは、かつて“角打ち”の入口だった場所だ。
角打ちとは、酒屋の一角をお酒が飲めるように開放することを指し、この相模屋酒店も角打ちスペースを設けていたのだが、どうやら2022年頃にやめてしまったようだった。角打ち営業をしていた頃は、この「エル・ドラド」も元気に稼働しており、さらにもう一台別の台も置かれていたようだ。

駄菓子屋筐体の写真です

ほろ酔いのおっさんが楽しむマシンとして、8ラインスロットなどは最強なのかもしれない。麻雀ゲームじゃ頭が回らないだろうし、レバー操作を要するゲームなどできようハズもない。それにこの場所でのゲーム機の役割は「そこに長時間滞在させ少しでも多くお酒を飲ませること」が主目的となる。100円40クレジット、1メダル200クレジットはそれ自体で大きく稼ぐためではなく、勝たせすぎず、さりとて負けすぎずの絶妙なラインを狙った設定と言えるかもしれない。
私はお酒には滅法弱いため、もし角打ち営業が続いていたしても到底お店に入る勇気はない。ひょいと店内を覗いてみが、アルコール以外の飲料があるようにも見えなかったので、店頭の自販機でお茶を買いその場をあとにした。

国道駅の写真です

もと来た道を引き返すとほどなくして見えてきたのはJR鶴見線の国道駅。1930年に開業した国道駅は、薄暗い洞窟のようにも見えるコンクリートのアーチが連なる構造を有している。かつては商業施設や飲食店が並ぶモダンな駅だったというが、現在は無人駅としての機能こそ健在なれど全体に静かで、まるで眠りについているような駅といった印象だ。しかしその佇まいは退廃建築好きにはこたえられず、外観から細かなパーツまでどの角度から見ても味わいが深い。中には機銃掃射を受けたといわれる銃痕がいまだに残されているなど、戦争遺産としての一面も持ち合わせている貴重な駅舎なのだ。
このあたりに来るとつい立ち寄ってしまうほど何遍来てみても飽きない駅なのだが、到着して早々電車がやってきたので、後ろ髪引かれる思いで急いで列車に乗り込む。

鶴見線は路線距離こそ10kmに満たない短い路線だが、見どころが多くてとても好きな路線。京浜工業地帯の海沿いを突っ切るように走り、首都圏にありながら他に類を見ない唯一無二の光景が続く。
中でも有名なのは、鶴見線海芝浦支線の終点・海芝浦駅だろう。駅のホームのすぐ脇が海(運河)に面しており、初めて来ると間違いなく度肝を抜かれる圧巻の景色を見ることができる。そして、改札の外に出ることができないという特殊な事情も面白い。改札の外は東芝の敷地内であるため、社員関係者以外の入場規制がかかっているからだ。

武蔵白石駅の写真です

慌てて乗ったのでよく確認しなかったのだが、目的地の手前の武蔵白石駅止まりの列車だった。改札を出て歩くか、ホームで20分ほど待つかの選択を迫られ、普段なら歩くところだが暑さに負けてボンヤリとベンチで待つことにした。時間にゆとりがあると、こうしたささいなトラブルも楽しく思えてくる。
やってきた次の列車に乗ると、浜川崎駅まであっという間に到着。ここから南武線浜川崎支線に乗り換えることもできるが、今日の目的地はここから歩いていくことになる。
川崎方面へとしばらく歩いていくと、工業地帯特有の錆びた鉄っぽい景色から、徐々に普通の住宅地へと町並みが変化していく。再び汗をかきながら20分ほど歩くと住宅街に一軒の喫茶店が見えてきた。

コーヒーショップダニエルの写真です

川崎市川崎区田島町の『コーヒーショップ ダニエル』のドアを開けると、愛想のいいお母さんが出迎えてくれた。ボックス席では何組かのお客さんが楽しそうに談笑している。カウンターでも常連と思われる女性2人がおしゃべりに花を咲かせており、お店の雰囲気のよさを感じさせる。
ここにくるまでの間、何を食べようかずっと考えていた。喫茶店ランチの定番ナポリタンか、それとも生姜焼きをガツンとライスをいただくか。

ダニエルの案内版です

しかし、お店に入るときにふと目に留まった謎にホラーテイストな看板を見た瞬間、そういえばこちらはピザ推しのお店だったなと心が決まる。
注文を済ませておしぼりで手を拭きつつ、ぐるりと店内を見渡してみる。喫茶店としては王道とも言えるようなこれといった特徴も特別な押し出しもないシックな内装で、いまどき喫煙可ということもあってか、愛煙家のいい寄合所になっているようだ。

テーブル筐体が2台置かれており、1台はまたしてもダイナの8ライン「チェリーボーナスⅣ」(1993)。もう1台は「ロイヤルマージャン」(ロイヤル電子/日本物産 1981年)と「三人打麻雀さんま」(ANES/2000)のインストが、1台の左右に入っていた。察するにどうやら2台ともだいぶ前に故障してしまっている。

ダニエル店内の写真です

さきほどお店に特徴がないと言ったが、実はダニエルにはもう一つの顔がある。それはこの店舗の向かいで「ホビープラザ ダニエル」という麻雀・囲碁・将棋が楽しめるお店を経営しているのだ。入りやすくするためか初心者向けの麻雀教室などもやっているという熱の入れよう。連載の第10回で紹介した長野県佐久市の喫茶店も、2階の雀荘からあぶれた客が麻雀ゲームに興じていたそうなので、こちらもそのパターンでテーブル筐体を置いたのかもしれない……そんなことを妄想していると、注文のミックスピザがやってきた。

ピザの写真です

自家製だというピザはトマトソースを塗ってからソーセージ、ピーマン、玉ねぎ、マッシュルームを置き、上からたっぷりとチーズがかけられている。生地の上でチーズがトロトロにとろける様子が視覚から食欲を激しく刺激し、自然と喉が鳴った。絶対に熱いことはわかっているけどどうしても一口アツアツのヤツをほおばりたい。慎重に持ち上げると、伸びるチーズが唇に触れて一瞬怯むが構わずに口内に収めていく。熱をも丸め込んで溶岩のように胎動する濃厚な奔流に悶絶しながら、その旨味に陶酔感を得る。ピザの醍醐味はまさにこの一瞬のためにある。

気がつけばあっという間に平らげてしまい、その余韻を楽しみつつアイスコーヒーをすすっていると時刻は午後2時を回っていた。
ゲームネタ的には今回はここでおしまいだが、シメにもう一発銭湯をキメたい。この時間で営業している川崎の銭湯は……と検索すると、このあたりは案外銭湯が多いことに気づく。できれば風呂上がりに汗をかく前に電車に乗り込めるといいなということで、川崎駅から一番近い銭湯を選んだ。おあつらえ向きに午後3時から営業しており、ダニエルからゆっくり歩けば30分ほどなので、もう少ししてから出ればピタリのタイミングで到着できそうだ。

政の湯の写真です

ソープやホテルなどが集結する川崎区南町は、川崎駅からほど近い大人の歓楽地帯だ。そこを通る政の湯通りにある銭湯がその名もズバリ「政之湯」。ちなみに同じ通りにはストリップ劇場の川崎ロック座などもあり、本来はもっと深い時間に来るべきところだ。
どうも周辺がややいかがわしく見えるからか、カウンター脇にある銭湯にはあまり似つかわしくない螺旋階段が風俗感を醸し出しているような気もする。しかし、こちらの銭湯は地下70メートルから汲み上げたナトリウム系冷鉱泉に加水加温した天然温泉が特徴の本格派だ。
淡褐色の湯にゆったり浸かっていると、疲れがじんわり癒されていくのと同時に、家に帰るのが猛烈に面倒くさくなってくる。これから川崎の夜の誘惑の声も聞こえはじめる時間になってくるしこの後どうするかは、風呂から上がって牛乳でも飲んでからのんびり考えることにしようか……。

 

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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