【第34回】神奈川県横浜市「いやさか湯」~「ゲームコスモ」

綱島駅の写真です

神奈川県横浜市港北区。

珍しく午前7時過ぎという早い時間に、東急東横線・綱島駅に降り立った。ここのところ早起きとは縁遠い生活を送っていたこともあり、まだ頭が完全には覚醒していない感覚がある。
綱島駅から東急新横浜線の新綱島駅前までふらふら歩き、バス停に並んだ。早朝だというのに陽差しがもう痛い。ホントこの夏は地獄のような暑さが続き、9月に入ってからも一向に衰える気配がない。8月はすっかりやる気というものを失い、灼熱の巷を避けて自宅にすごすご引きこもっていたのだが、ここにきてさすがに運動不足が深刻になってきたため、意を決して朝早くから散歩に出ることにしたのだ。それなのにもう暑すぎて早くも気力が萎え始めている。

しばらくしてやってきたバスの中はひんやり心地よく、できればこのまま家まで連れて行ってくれないだろうかなどと愚にもつかないことを思ったが、わずか15分ほどで下車。バス停の脇には二ツ池という小さなため池があり、早朝の清々しさも相まって“最後の夏休み”感を醸し出していた。

二ツ池の写真です

池の周りをぐるりと回って、行く先の住宅街の一角に人が2人ほど立っているのが見える。近くなるとお店に入るための行列だとわかった。こんな朝早くに行列?
パッと見、どこにも店名が書かれておらず、何のお店なのか瞬間的に判断はつかない。ここが立ち喰いそばの一勢力“鶴見系”の総本山と言われる立ち喰いそば店『ごん兵衛』だ。

鶴見系とは“昆布出汁”“薄口醤油”を使用した透明度の高いツユが基本の立ち喰いそばカテゴリー。それにプラスして“灰色茹で麺”“白身フライ”“黒ドンブリ”といった要素があったりなかったり。
まぁ、とにかくなんでもカテゴライズしたがる日本人の習性はさておき、ずっと前から気になっていたお店だった。

ごん兵衛の外観です

引き戸を開けて中に入ると手狭な店内は満席。注文を控えた人が店内にも列をなしていた。この時間、この場所で満席行列とは……! という衝撃もさることながら、驚きなのはそのお値段。ベースとなるかけそば、かけうどんは250円で、玉ねぎ天ぷら、ちくわ、コロッケ、わかめ、卵などはすべて50円だ。迷いに迷った人のためにセットも充実しており、500円から選ぶことができる。
初訪なのでまずはセットでやってみるかと、たぬきそば、コロッケ、アジフライ、半ライスのセットを注文。これでなんと550円だ。ついでに卵も添えて600円はどう考えてもお値打ちすぎる。

そばの写真です

出てきたセットを前にすると、朝からやりすぎ感が拭えない。関西風のスッキリした薄口醤油出汁はじんわりと体に滲み込み、アジフライでかきこむ白飯がパワーを漲らせていくのがわかる。コロッケは一口かじったらそばの中にドボン。次第に染み出していくコロモの油が、卵の黄身でマイルドになったツユに新たなパンチを加えていく。うむ、なるほど、これは近所にあったら通いつめるお店だな。
営業時間が朝6時40分から昼14時までと朝方に偏っているため、この時間にはるばるやってきた甲斐があった。近くに鉄道が走っておらず、直線距離で一番近い大倉山駅まででも歩くと30分以上かかるこの立地がまた堪らない。「駅から遠く離れた場所にある歩いて行きにくい立ち喰いそば」というニッチなジャンルを秘かに研究している私としてはココロを鷲掴まれる一店となった。

さて、時間優先で駅からバスでやってきたが、ここからはいよいよお散歩といこう。
時刻はまだ8時を回ったばかりでどこのお店もやっていないが、ここから南に2kmほど歩いたところにある銭湯を目指す。直線距離で約2kmほどだが真っ直ぐな道が皆無で、くねくねと曲がりまくっている上に、Googleマップを最大に拡大してよーく見ないと途中で途切れている道ばかり。よくよく注意して進まないと歩いた分を無駄にしかねないトラップが満載だった。そこに高低差も加わり、いくつかの丘を越えていくことになりそうだ。
お陽様が上がっていくにつれて暑さも上昇していくのを感じる。できるだけ陽に当たらぬよう、日陰の壁伝いを忍者のように慎重に進んでいく。
ここを進めば最短ルートになるけど行き止まりかな……と思ったら階段で抜けられたり、逆に行けそうだなと思ったら繋がっていなかったりと、詳細な地図なしでは二度と同じルートを通れないであろう複雑なコースを、できる限りの最短で進んでいく。

馬場の写真です

40分ほどでたどり着いたのは、横浜市鶴見区の馬場という町。最寄り駅は東急東横線の菊名駅か妙蓮寺駅だが、どちらも歩いて30分以上かかるなかなかの孤島だ。江戸時代は神奈川宿や保土ヶ谷宿に人足や馬を手配する地域としての役割を持ち、馬に由来する逸話もあることから馬場と名付けられたとも言われているそう。古民家などの歴史的建造物もいくつかあり、静かで落ち着いた町並みはとても暮らしやすそうだ。

そんな町の一角にあるのが、銭湯の『いやさか湯』。いやさか(弥栄)とは、生命の息吹と栄えるという意味を合わせた繁栄を表す言葉で、お風呂で活力を養ってほしいという意味合いで付けられた名だそう。銭湯の店名まで古式ゆかしい。

いやさか湯の外観です

建物は近代的で大きく、2階が受付で地下に浴室が配されている。土日は朝8時から営業しているのがありがたい。早速入浴券を購入して、露天風呂にゆったりと浸かった。ここまでの汗がきれいに流していくのを感じて、思わず鳥肌が立つ。朝から旨い立ち喰いそばをすすり少し歩いてから広々とした風呂に浸かるなど、この世にこれ以上の極楽はないのではないだろうか。

脱衣所に戻り、汗が引くまで扇風機を浴びてから2階のロビーに戻る。するとそこにはテーブル筐体が待っている。そう、いやさか湯は“ゲーム銭湯”なのだ。

ゲーム筐体の写真です

この連載ではすっかりお馴染みとなった三木商事のコンパネが付いた60in1のエミュ台。自販機で冷たいお茶を買い、ドッカと腰を下ろす。やはり銭湯にあるゲーム機は不思議と心が踊る。しかもちゃんとプレイできるのはなんとも嬉しい限りではないか。
早速、朝のワンプレイと洒落こもう。60タイトルの中から選んだのは「Mr.Do! VS ユニコーンズ」(ユニバーサル/1983)。ピエロを操作して迫りくる二足歩行のユニコーンを開けた穴に落としてから潰していくアクションゲームだ。様々なテクニックがあり、難度は高いが「Mr.Do!」シリーズで一番好きなタイトルかもしれない。久しぶりにプレイするがなかなか調子よく、6面まで行ったところでゲームオーバー。

ゲーム画面の写真です

いやさか湯にはお酒やおつまみ、食事もできる座敷が併設されており、夕刻からは風呂上がりに一杯飲るご近所さんで賑わっているそうだ。
この銭湯のことを知ったのは、Googleマップで銭湯を探しては写真を眺めていたときのことだった。一枚の写真に、座敷のテレビの下にドリームキャストと思われるゲーム機が映っているのを発見したのだ。よく見ると脇にあるカゴの中にはスーパーファミコンらしきものも入っているようだ(※下の写真はGoogleマップより)。写真が投稿されたのは2019年と比較的新しいこともありすぐに駆けつけたが、すでにドリキャスもスーファミもなくなっていた。しかし、その代わりでもないのだろうがテーブル筐体が置かれていたというわけだ。察するに店主もなかなかのゲーム好きなのかもしれない。

グーグルレビューの画像です

気持ちよく汗を流したところで、ここからはバスでJR鶴見駅に行くことにしよう。気温が低ければ歩いてもいいのだが、なにせ外はすでに30度を超えている。無駄な体力消耗を抑えるために、頼れるところはバスに頼ろう。
バスは10時半すぎに鶴見駅前に到着。せっかくなので、駅前にある気になるゲーセンをちょっと覗いていくか。「ゲームコスモ」は、鶴見店と金沢文庫店の2店で30年以上営業を続けてきたゲームセンター。金沢文庫店は今年3月をもって惜しくも閉店となったが、鶴見店はここ鶴見駅前で孤軍奮闘を続けている。

ゲームコスモの外観です

ぎゅっと圧縮したようにゲームが配置されている店内は、まさに90年代を彷彿とさせる懐かしさに溢れている。お店名物の瓶のコカ・コーラ販売機が現在故障中でしょんぼりだが、もうひとつのコスモ名物“魔改造アストロ筐体”は健在だ。なんと驚異の10円1プレイ。
いやさか湯と全く同じタイプの60in1ということで、本日2回目の「Mr.Do! VS ユニコーンズ」に挑む。昔からなのだが、同じゲームを続けてプレイすると1回目より早く終わる。そして2回目より3回目のほうが、以後やればやるほど早く終わるという謎のジンクスがある。ジンクスを裏切ることなく2回目のプレイは4面で終わった。集中力も続かなくなってきているな。

コスモのゲーム筐体です

まだ11時だし、散歩といいながらあまり歩いてもいないのでここからが本番……なのだが、今回はひとまずここまで。
全2回シリーズとして、次回、鶴見駅からスタート!

 

過去の記事はこちら

さらだばーむ ゲームある紀行

 

BEEPの他の記事一覧はこちら

BEEP 読みものページ
VEEP EXTRAマガジン

BEEP ブログ

よろしければシェアお願いします!
著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

PAGE TOP