【第4回】ダンジョンですべてを現地調達 スーパーファミコン『ダンジョン・マスター』

レトロゲームファン、BEEPファンのみなさま、こんにちは。パソコン雑誌『ログイン』出身のフリーライター、髙橋ピョン太です。レトロゲームの名作ゲームを紹介する連載コラム第4回は、ビクター音楽産業(現・ビクターエンタテインメント)のスーパーファミコン版『ダンジョン・マスター』をテーマに選びました。

 

スーファミ用ゲーム『ダンジョン・マスター』は、1991年12月20日に発売されました。ダンマスの愛称で親しまれるこのゲームは、リアルタイムロールプレイングゲームという新しいジャンルを確立しました。ゲームをプレイすることで本当に恐怖体験ができる半端ない臨場感は、モンスターがうようよ出てくるような本物のダンジョンがあったら、きっとこういう体感だろうと話題になりました。

スーファミ版『ダンジョン・マスター』には、攻略本は必須かもしれません。

超リアルなダンジョンは遊んでいて本当に恐怖

『ダンジョン・マスター』は、実はオリジナルはパソコン向けのゲームで、米国Software Heavenのゲーム開発部門FTL Gamesが1987年12月15日にAtari ST向けに発売したゲームが元です。

発売と同時にすぐにヒットした『ダンジョン・マスター』は、その後、1988年以降に次々とAmiga版やIBM PC版など署名なパソコンに移植され、日本でもビクター音楽産業が1989年11月にFM-TOWNS版、1990年1月にX68000版とPC-9801版を発売したのちに、1991年12月にパソコン以外では初の移植となる、このスーファミ版を発売しました。

パソコン向けの『ダンジョン・マスター』を忠実に移植したスーファミ版。

 

パソコン向けの『ダンジョン・マスター』は、当時はCPUが16ビット以上のパソコンとマウスが必須というやや性能の高いパソコン環境が必要不可欠でした。そんなマシンスペックが要求されるゲームがスーファミに移植されると聞いたとき、はたしてスーファミでちゃんと動くのだろうかという懸念もありました。しかも、スーファミにはマウスがありません(スーパーファミコンマウスの発売は1992年)。が、しかし、そんな心配をよそに、スーファミ版『ダンジョン・マスター』は見事に完成度の高い移植を成し遂げていました。

ゲームは、ダンジョンを探索するロールプレイングゲームです。その見た目は『Wizardry』にも似た(疑似)3Dタイプの一人称視点ダンジョンRPGですが、ゲームは伝統的なターン制3DダンジョンRPGとは異なるリアルタイムRPGです。ダンジョン内では、移動、戦闘、休息を含めてすべての行動の裏でリアルタイムに時間が流れています。つまりダンジョン内でボーッとしていたら、モンスターに襲われます。また、ダンジョン内には隠しアイテムや隠し部屋、ワナ、謎解きなど様々な仕掛けが用意されていて、そうした仕掛けもリアルタイムに作動します。また、戦闘も魔法もまたリアルタイムです。詳しくは後述しますが、これらのゲームシステムが本物のダンジョン感を演出します。

ログインの特別付録

ここで、ちょっとログイン1990年2月2日発売号(月2回、第1・第3金曜日発行)の特別付録『ダンジョン・マスター』の表紙を見てください。ちなみにこの付録は、ログインがFM-TOWNS版、X68000版、PC-9801版の『ダンジョン・マスター』向けに作ったガイドブックです。ほぼX68000版とPC-9801版のゲーム発売時期に合わせて作成しました。

特別付録『ダンジョン・マスター』表紙(出典 ログイン1990年2月2日発売号)

 

日本版の『ダンジョン・マスター』3機種(出典 ログイン1990年2月2日発売号特別付録)

 

表紙の絵は、パソコン版『ダンジョン・マスター』のパッケージイラストでもありますが、絵には先頭で剣を振りかざしているものもいれば、たいまつを取ろうとしているもの、後方で魔法を唱えているものなど、3人の冒険者がてんでばらばらの行動をしています。実はこれがゲームそのものを表現しています。

実際のゲームでは、前衛2人後衛2人、合計最大4人のパーティーでダンジョンを探索しますが、プレイヤーは冒険者に対して行動の指示をリアルタイムで行わなければなりません。当然ですが近くにモンスターがいるときは、それはもう緊張します。

ゲームは4人パーティーが基本

ゲームはまず、ダンジョン内にいる全24人のキャラクター(勇者)の中から最低1人、最大4人を選択してパーティーを組みます。勇者には、それぞれの名前と戦士、忍者、僧侶、魔術師といった職業が決められています。ちなみに職業は、その傾向にある性格的なものなので、あとから自分の好きな職業にも育て上げることもできます。勇者は、ダンジョン内で鏡の中に閉じ込められています。まずは好きな勇者を選んで復活させます。復活させることで、勇者はすぐに自分のパーティーに組み込まれます。この時、復活ではなく転生を選ぶことで、自分で勇者の名前を決めることができます。ただし、転生では職業レベルがリセットされてしまうので、忍者や戦士といった基本的職業能力がまったくなくなるので、気をつけましょう。また、一度復活または転生させた勇者は選び直すことができないので、そのあたりも慎重に選びたいところです。

このダンジョンで命を落とした24人の勇者の魂が鏡に閉じ込められているという。

 

ちなみに当時のログイン編集部では、全身緑色のトカゲのヒッサーと毛むくじゃらのダルーをガチャピンとムックという名前で転生させるのが流行りました。

転生では名前が変えられるので没入感もひとしお。

移動も呪文を唱えるのもリアルタイム

パーティーを組んだら、いよいよダンジョンの奥深くへと進みますが、『ダンジョン・マスター』では、まず勇者のインフォメーション画面がベースになりますので、最低限その機能を覚えておきましょう。

インフォメーション画面は、ペーパードールインターフェイスという方式を採用しています。武器やアイテムは手に持たせ、兜等は頭に、服や防具は体に着せて、ブーツ等は足に履かせます。非常にわかりやすいインターフェイスですね。ポケットのようなものやポーチのようなものもあります。

最初はほぼ裸の状態の勇者も少なくない。まずは手に武器を持たせましょう。

 

しかし、最大の特徴はなんといっても目と口でしょう。『ダンジョン・マスター』では、おなかがすいたら物を食べなければなりません。また喉が渇いたときは、水を飲みます。こうした行動は、プレイヤー自身が食べ物や水をすべて口に運び、食べさせたり飲ませたりさせます。

ダンジョン内で拾ったスクロール(巻物)は、目に運ぶことで中身を読むことができます。スクロールには、魔法の呪文や謎解きのヒントなどが書かれています。

スクロールを目に持って行くことで内容が読める。

 

こうして覚えた呪文は、実はスクロールを読むことで取得するわけではなく、呪文を構成するシンボル(ダンジョン・マスター固有の記号)をプレイヤー自身が覚え、必要に応じた魔法をプレイヤーが勇者らに唱えさせなければなりません。ちなみにプレイヤー自身が呪文を知っていれば、実はスクロールを拾わずとも、その魔法を唱えることができますが、実際に効力を出すためには魔法を唱える勇者のスキルが重要になります。また、魔法を唱えるにはマナを消費しますが、マナもまた勇者が鍛錬することで増えるものであるため、初心者レベルの勇者が威力のある魔法を唱えても、ほぼ使えません。

呪文のシンボルは正しく一文字ずつ入力して唱える。例はファイアー・ボールの呪文。

 

ちなみに『ダンジョン・マスター』には、伝統的なRPGのような経験値やレベル上げがないのも特徴のひとつです。勇者のスキルは、どれも使っていくことで成長していきます。ですので、魔法や武器は積極的に使うようします。それによって、それぞれ戦士のスキルや魔術師のスキル、僧侶のスキル等が成長していきます。こうしたゲームシステムもまた、超リアルダンジョンを演出する効果を高めています。

このゲームは他のゲームとは違う特徴がさらにあります。それは、武器や防具、食料などを売るお店がないという点です。また、死者を蘇らしたり傷ついた者を癒やしたりするための教会や宿もありません。あるのは目の前のダンジョンだけです。では、おなかがすいたり喉が渇いたりしたらどうするの? 武器や防具はどこで手に入れられるの? それはすべてダンジョンの中です。ダンジョンの中で調達しなければならないんです。

モンスターの中には、倒すと食料になるものもいます。見た目がグロテスクなので、食べたいかどうかは別として、背に腹は代えられないので積極的に倒していきます。

敵のスクリーマーを倒したら肉塊になりました。通称ブロッコリー、拾えばこれが食料になります。

 

また、モンスターの肉以外にもパンやチーズなどがダンジョン内に落ちているので、食べられそうなものは拾って、積極的にストックしていきます。しかし勇者には、アイテム等を持てる数と重さに限界があります。個数に関しては、箱を拾うことでさらに持てる数が増えますが、その場合は重量に要注意です。

この箱が便利なので、箱が落ちていたら即ゲットです。中には、お宝が入っていることもあります。

 

また、上記の持ち物の中にフラスコがありますが、これも落ちていたら即ゲットです。フラスコがあれば、魔法で各種ポーションを作っておくことができるので、体力回復のポーションや解毒のポーションなどを作っておいて、いざというときのために備えることも可能です。空のフラスコには、水を入れておくこともできます。

こうした様々なものを調達することができるダンジョンですが、実はその多くは謎解きの仕掛けに隠された部屋であったり、ダンジョンの奥深くであったり、そんなに簡単には手に入りません。特に貴重かつ役立つアイテムは、それはもう難解な謎解きの仕掛けの先にあることが普通です。

ちなみに、謎解きは簡単なものから、超難解なものまで、多種多様にわたっています。

ダンジョン内の謎解きは、だいたい手前にヒントが用意されています。

 

この例では、先に金貨を手に入れておく必要がありますが、まず謎の手前でそれらは手に入れられるのが『ダンジョン・マスター』のセオリーです。手に入れたアイテムは、きっと何かに使うに違いないと意識しておくことが大切です。

謎解きは他にも、例えば壁の出っ張りだったり、何か物を置くことで作動する床だったり、見ればすぐにわかるものもありますので、それらを見逃さないようにダンジョンを徘徊します。壁や床に怪しさがあれば、まずはいろいろと試してみましょう。

また、『ダンジョン・マスター』ではプレイヤーの機転でいろんなことを試すことができます。例えば、ボタンを押すことで開閉ができる扉では、敵を誘い出して扉で挟んでやっつけることも可能です。強い敵やダンジョンの序盤で武器の威力が乏しいときなどは、かなり効果のある攻撃パターンです。

謎解きではありませんが、こうしたテクニックも活用できます。

 

『ダンジョン・マスター』では、没入感を高める要素のひとつとして、敵のモンスターが近くにいることを示す効果音があります。ゲームをプレイする際には音も聞いておかなければなりません。時々、すぐ隣から敵の羽音や鳴き声などが聞こえてきますので、そんなときは警戒態勢に入りましょう。

ダンジョンの奥深くになると毒を持ったモンスターも出てきます。

 

いやな音が聞こえているときは、敵が目の前にいなくても、突然、後衛がうしろから攻撃されていることもあるので、前後左右にも警戒をしておきます。

ちなみにこのワームのようなモンスターも食べられます(笑)。

 

『ダンジョン・マスター』のダンジョンは、地下に行けば行くほど強いモンスターや複雑な謎が仕組まれています。強いモンスターは。勇者のスキルが上がればなんとかなるでしょう。しかし、一筋縄でいかないのが謎解きです。これは、数時間悩むかもしれません。下手をすれば数日かかるものもあるかもしれません。ゲームには、一応ストーリーのようなものがあり、目的も明快なのですが(その説明はマニュアルやウィキペディアに譲ります)、それよりもゲームの本当の目的は、オリジナルのゲームを開発したFTL Gamesが仕掛けたその謎を解き明かすことだと思います。

ダンジョンは地下に行けば行くほど怖い敵と難解な謎解きの仕掛けが増えていきます。

 

ネタバレになってしまいますので謎について多くは語りませんが、謎が解けたときの快感こそがこのゲームの神髄でもあり、リアルな仕掛け、目の前に現れたら本当に怖い敵の存在は、これまでの(1990年代初期)ゲームでは経験したことのない臨場感で、本物のリアルなダンジョンそのものだと思います(本物のダンジョンに行ったことはないけれど)。

取材の思い出

ログイン編集部は、オリジナルの『ダンジョン・マスター』が発売されるほんの数か月前に、高橋の先輩である編集者がFTL Gamesに取材に行っています。その時の記事がこちらです。

『ダンジョン・マスター』のログイン初出は1987年(出典 ログイン1987年10月号)

 

取材によると、『ダンジョン・マスター』の謎解きは、実に2年の歳月をかけて作られたといいます。これらの謎解きは、ダンジョン・マスター コンストラクション システム(DCS)によって作られたそうです。

元々『ダンジョン・マスター』は、ダグ・ベル氏とアンディ・ジャロス氏(アートワーク)が開発スタジオPVC Dragon時代に『クリスタルドラゴン』という名前で開発を始めたもので、当初はリアルなダンジョンを再現するツールだったといいます。その後、2人は1983年にFTL Gamesにジョインし、『ダンジョン・マスター』を完成させたそうです。

実は高橋もまた、その2年後、1989年の冬にFTL Gamesに取材に行っています。スーファミ版『ダンジョン・マスター』が発売される前ですね。当時、高橋はログイン誌上でAmiga Timesというコーナーを担当していたので、『ダンジョン・マスター』のAmiga版を遊び倒していました。その臨場感に驚かされたゲーマーの1人であり、また日本語版がまもなく発売されるという情報を聞いて、居ても立ってもいられなく、取材に向かったのでした。

お話は、FTL Games社長のウェイン・ホルダー氏に伺ったのですが、この当時もまたDCSを使って新たな謎を開発していました。その謎は、ウェイン・ホルダー氏自身はパズルと表現していました。このときのパズルは、その後に『ダンジョン・マスター』の続編として発売された『カオスの逆襲』向けのものでした。パズルとは言い得て妙ですよね。

そのとき、ウェイン・ホルダー氏は、『ダンジョン・マスターII』についても言及していました。『カオスの逆襲』で鍛え抜いた勇者のデータは『ダンジョン・マスターII』にも持って行けることや、『ダンジョン・マスターII』は3部作になるというお話も伺いました。

FTL Gamesはその後、『ダンジョン・マスター』の拡張キットにあたる『カオスの逆襲』を1989年に発売、3部作の予定であった続編『ダンジョン・マスターII』の第1部『スカルキープ』を1993年に日本で発売しました。1995年には、IBM PC版、Amiga版、Macintosh版を発売しますが、残念ながら1996年にFTL Gamesは倒産し、『ダンジョン・マスターII』は第1部のみで未完のまま終了してしまいました。

ちなみにゲーム機では、ビクター音楽産業がPCエンジンで外伝の『ダンジョン・マスター セロンズクエスト』を1992年に、セガサターン版でダンジョン・マスターの前段の話となる『ダンジョン・マスター ネクサス』が1998年に、メガドライブのメガCD版『ダンジョン・マスターII スカルキープ』が1994年にそれぞれ発売されています。

というわけで、今後『ダンジョン・マスター』の新作を遊ぶことはかないませんが、こうしてスーファミ版の『ダンジョン・マスター』を久々に遊んでみても、FTL Gamesの仕掛けたパズルは色あせることなく今でも楽しめました。こうなったらレトロな『ダンジョン・マスター』シリーズを片っ端から遊んでみるのも手ですね。まずは、スーファミ版を絶賛おすすめしたいと思います。

『ダンジョン・マスター』特別付録を作成したときに用意したリアルダンジョン飯。撮影のためにわざわざ青山の紀伊國屋で調達したのでした。

 

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著者紹介
髙橋ピョン太

1980年にフリーでパソコン用ゲーム開発を開始。『ボコスカウォーズ』PC-8801版の移植の仕事をきっかけにアスキー専属プログラマーになり、80年代前半~90年代にアスキーのパソコン雑誌『ログイン』の編集者に転向。
その後は、どっぷりと編集につかり、『ログイン』6代目編集長を経て、ゲーム、IT系ライターとなり、現在に至る。Xではレトロなハードやゲームについてつぶやいています。
髙橋ピョン太のX(https://twitter.com/pyonta)

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