【第3回】平成のドリームプロジェクト スーパーファミコン『クロノ・トリガー』

レトロゲームファン、BEEPファンのみなさま、こんにちは。パソコン雑誌『ログイン』出身のライター、髙橋ピョン太です。スーパーファミコン(以下、スーファミ)の名作ゲームを紹介する連載コラムの第3回は、スクウェア(現:スクウェア・エニックス)の『クロノ・トリガー』です。

 

今もなお名作として語り継がれる『クロノ・トリガー』

1995年3月11日発売の『クロノ・トリガー』は、ご存じ大ヒットロールプレイングゲーム作品です。スーファミ用ゲームですので、もちろんレトロゲームなのですが、実は今もいくつかのプラットフォームにて現役で配信されている超ロングセラーゲームである、熱いファンのいる名作の誉れ高い作品です。

 

鳥山明先生のイラストのパッケージがたまらないですね。

 

今回は詳しくゲームの内容を紹介しすぎますと現在もプレイ中のゲーマーの方にネタバレになってしまいますので、どちらかというと『クロノ・トリガー』の発売当時の雰囲気について詳しく語りたいと思います。

『クロノ・トリガー』を発売した頃のスクウェアは、まだエニックスと合併する前でした。今やスクウェア・エニックス(以下、スクエニ)が昔は別々の会社だったことを知らないゲーマー世代も出てきていますが、これは二社が合併する8年ほど前のお話です。

『クロノ・トリガー』が発売された1995年は、奇しくもWindows95発売の年です。パソコンユーザーがようやくインターネットを始めようという年でした。その時代は、スクウェアの代表作であるファイナルファンタジーシリーズは、1994年4月に発売されたスーファミ版『ファイナルファンタジーVI』が最新作。一方、エニックスのドラクエシリーズは1992年9月発売の『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』がシリーズ最新で、多くのドラクエファンに新作が待ち望まれていた時期でした。世の中は、『FF VI』はクリアしちゃったし、そろそろドラクエの最新作を出してほしい、という雰囲気でした。

 

ドリームプロジェクトと呼ばれたスクウェア渾身の作品

そこに突如として現れたのが『クロノ・トリガー』です。『クロノ・トリガー』は、「ファイナルファンタジーシリーズ」の坂口博信氏がスーパーバイザー的なエグゼクティブプロデューサーを務め、「ドラゴンクエストシリーズ」の堀井雄二氏が同じくスーパーバイザーかつストーリー原案を担当、そして『ドラゴンボール』などでおなじみの漫画家・鳥山明氏がキャラクターデザインを担当するなど、それはもう夢のようなまさにドリームプロジェクト的なコラボレーション企画だったんです。プロジェクトは『週刊少年ジャンプ』『Vジャンプ』等でも大きく取り上げられ、また多くのゲーム雑誌が大々的に記事を掲載しました。

『クロノ・トリガー』が面白いゲームに仕上がったのは、ドリームプロジェクトに名を連ねた著名人の功績のみならず、実際にシナリオ全体を統括し古代編のシナリオを全編制作した加藤正人氏や、ゲーム内の曲を作曲した光田康典氏を始めとする現場の開発スタッフたちの成果であることが作品を通して見て取れます。鳥山明氏の世界観を見事にスーファミに落とし込んだグラフィックスタッフ陣のクオリティの高さなど、まさに当時のスクウェアの技術力の賜物でしょう。

『クロノ・トリガー』の魅力についてはすでに語り尽くされていますが、まだゲームをプレイしたことがない人向けに、少しゲームの内容についてもお話しておきます。

『クロノ・トリガー』は、振り子時計の大きな振り子が時を刻むように揺れているタイトル画面からスタートします。この時点で、ゲームは時間に関係しているストーリーということがわかる、シンプルながらもゲーム全体を体現しているよきタイトルです。

 

振り子が揺れているところから始まるタイトルが印象的でした。

 

舞台はガルディア王国。今日は建国1000年を祝う千年祭の日。主人公クロノは、朝、母親ジナにどやされるように起こされ、一日が始まります(RPGによくあるパターン)。広場ではお祭りと共に、幼なじみのルッカが自身の発明を披露する日でした。

クロノが広場に行くとお祭りはすでに始まっていました。クロノはルッカの発明を見学するために広場の奥へと進むのですが、その途中で見慣れない女の子マールと出会い頭にぶつかってしまいます(これもよくあるパターン)。これを機に、クロノは広場に不慣れなマールを案内し、そして一緒にルッカの発明を見に行くことになりました。

 

このあとマールとぶつかり、初めて会話を交わします。

 

ルッカの発明は、超次元物質転送マシン1号という転送マシンでした。物質を離れた場所へと転送することができるそのマシンの実験台第1号として、クロノが転送台の上に乗ります。クロノは無事に転送され発明は大成功。それを見たマールは「私もやりたい」と自ら台の上に乗り、そして転送されるのですが、転送中になぜかマールの持つペンダントが原因で空間がゆがみ、マールはペンダントを残したままゆがんだ空間の先へ消えてしまいます。

 

ゆがんだ空間へ消えていくマール。はたして彼女の運命はいかに。

 

クロノとルッカは、その原因をペンダントがキーになっていると予測し、取り急ぎクロノがペンダントを持って転送台に乗り、マールを助けるために追いかけます。そしてルッカはペンダントとマシンの関係を調査したのちに、あとから追いかけることにします。

クロノが転送された先は、得たいの知れない魔物のようなものたちがウヨウヨいる謎の裏山でした。クロノは魔物と戦いながら裏山を抜け出します。里には、村、宿屋、マーケットがあり、そこはガルディア王国に似ていましたが、村にはクロノの知った顔はありません。そして村の人々は、口々に「魔王軍にさらわれて行方不明だったリーネ王妃が裏山で見つかった」という話をしています。

クロノはお城へと向かいますが、お城では、なぜかリーネ王妃がクロノにお世話になったというので歓迎され、王妃に謁見することが許されます。リーネ王妃は、なんと消えたマールだったんです。そして、ここはクロノが住む時代(現代)の400年前のガルディア王国だったのです。ガルディア王国は、魔王軍と戦闘状態でした。

マールは人々に勘違いされ、自分とそっくりのリーネ王妃と間違われていたのです。そんな話をしていると、マールは再びクロノの目の前から突然消えてしまいます。

クロノが途方に暮れていると、そこにクロノを追いかけてきたルッカが現れます。ルッカの調査によれば、マールは現代のガルディア王国のマールディア王女で、リーネ王妃はマールの先祖でした。この時代の王妃は魔王軍にさらわれ、本当はそのあとに誰かが助けることになっていましたが、なぜか歴史は変わってしまいました。ここで本当の王妃を探し出さないと、マールの存在が消えてしまうことになるのです……。

クロノは歴史を元に戻すため、ルッカと共に本物のリーネ王妃を魔王軍から取り戻す冒険に出ます。道中、クロノはカエルの姿をした剣士カエルと出会い、一緒にリーネ王妃を助け出します。するとマールも無事に見つかります。ここでめでたしめでたしとなり、クロノとルッカはカエルと別れ、マールと3人でルッカが通ってきたゲートを使い現代へと帰るのでした。

 

のちに重要な役割をはたすカエルとの出会いとしばしの別れ。

 

しかし、現代に戻ってきたクロノは、王女誘拐犯の罪に問われ王国裁判にかけられてしまい、そして刑務所へと投獄されてしまます。クロノは脱走してルッカと合流、そんな王国に嫌気がさしたマールは自由になりたくて、追っ手から逃れるクロノたちと一緒に再びゲートへと飛び込みます。ゲートの先は、さらにどこかわからない場所でした。

 

マールを助けたピョンタ(クロノ)は、なぜか王女誘拐の罪に問われます。

 

ゲームジャンルは時をかけるタイムリープRPG

このゲームは、つまりタイムリープもののロールプレイングゲームだったのです。

クロノたちがたどり着いたのは、大災害ラヴォスによって滅んでしまった自分たちの未来でした。クロノたちは、今度は世界の滅亡を防ぐために歴史を変えることを決意します。調査した結果、中世の魔王がラヴォスを生み出したことが原因で未来が滅んだということを突き止め、いよいよ魔王を倒すために、過去・現代・未来を行き来し、様々な謎を解き明かしていきます。そして、ついに魔王を倒すときが来るのですが、実はこの歴史はそんなに単純じゃありませんでした。

 

クロノたちの未来の世界は崩壊していた……。

 

ラヴォスによって世界は荒れ果てていく……。

 

主人公たちが時間を超えて冒険をするのは、原始、古代、中世、現代、そして未来のワールドマップ。これらすべてのワールドマップにゲートで通じていながら、どの時間にも属さない時空を超えた謎の空間「時の最果て」を拠点に、必要に応じて各時代へとタイムリープしていきます。

 

時の果ては、イベントクリアと共にタイムリープできる先が増えていきます。

 

魔王軍の魔物たちと戦うバトルシステムは、「ファイナルファンタジーシリーズ」でおなじみのATB(Active Time Battle)の進化形ATB Ver.2が採用されています。ATBを継承するATB Ver.2は、「ACTIVE」モードでは敵との戦闘時も常に時間が流れていて、プレイヤーが主人公たちに戦闘の指示をする間も敵は動きまわり、敵からの攻撃も続くため、スリリングなリアルタイムバトルが楽しめます。また、もう少しゆっくりと戦略を練りながらバトルを楽しみたい人向けに、ドラクエのように技やアイテムを選ぶウインドウが開いている間は時間が止まっている「WAIT」モードが用意されています。ちなみに戦闘モードは、いつでも切り替えが可能です。

 

ATB Ver.2はスリリングなリアルタイムパドル。ボーッとしてたらやられます。

 

魔王を倒すことが目的だと思っていた『クロノ・トリガー』は、マルチエンディングでした。主人公たちの行動によってさまざまなエンディングが待っています。そして魔王を倒した先にも、実はあーんなことやこーんなことが待っているんです……。

 

魔王城と魔王との出会い、そして戦いは単なる通過点だったのです。

 

マルチエンディングを制覇しよう

『クロノ・トリガー』は、ゲームクリアをすると「つよくてニューゲーム」モードが現れます。そのモードでは、セーブデータを選び、データのレベル、技、アイテムを引き継いだまま、またゲームが一から遊べるようになります(ただしお金やストーリーに影響する一部の重要アイテムは引き継げない)。ゲームは、これによりその他のエンディングも堪能することが可能なのです。

『クロノ・トリガー』のゲーム内で出会ったキャラクターたちは、敵も味方も含めて個性が豊かで愛おしい登場人物ばかりです。そして要所要所で体験したイベント、さらには流れている曲まで忘れられない存在となり、こうした体験すべてがよき思い出になります(少なくとも自分はなりました)。このプレイ感こそが、誰もが『クロノ・トリガー』が名作であるといいたくなるゆえんなんだと思います。

 

すぐに逃げるビネガーはむかつく!! しかし、どこか憎めません。

 

『クロノ・トリガー』発売一カ月後の4月23日、任天堂はスーパーファミコン専用周辺機器『サテラビュー』を発売し(通販等が先行、店頭販売は11月)、BSアナログ放送を利用したスーパーファミコン向け衛星データ放送サービス『スーパーファミコンアワー』を開始しました。

 

1995年当時、スーパーファミコン用のゲームに同梱されていたサテラビューのチラシ。

 

『スーパーファミコンアワー』では、さまざまな著名人をMCに迎えた各種番組が放送されたほか、体験版ゲームや一部オリジナルゲーム(ミニゲーム)も配信されるなど、スーパーファミコンに関連する情報が放送されました。これらの配信ゲームは「秘伝ゲーム」とも呼ばれていましたが、任天堂イチオシ秘伝ゲームのひとつが『クロノ・トリガー』でした。

 

『サテラビュー通信』準備号は、『月刊ファミコン通信攻略スペシャル』増刊号として発刊されました。

 

『クロノ・トリガー』は「ジェットバイクスペシャル」「ミュージックライブラリー」「キャラクターライブラリー」の3つの秘伝ゲームが配信されました。

「ジェットバイクスペシャル」は、『クロノ・トリガー』の本編で登場したジェットバイクによるバイクレースを抽出したミニゲーム配信です。バイクレースに勝つことでマル秘情報が得られるおまけ付きでした。

「ミュージックライブラリー」は、『クロノ・トリガー』の魅力のひとつである曲を自由に聴くことができる音楽配信です。自分の好きな曲をまったりと聴くことができました。

最後の「キャラクターライブラリー」は、敵や味方のキャラクターの詳細が載っているデータ集配信です。敵のキャラクターは、すぐに倒してしまったキャラなども収録されており、ここでじっくりとポーズやその特徴について知ることができるさながらモンスター図鑑のような配信でした。

残念ながらサテラビューそのもののサービスは2000年6月30日に終了してしまったため、今となっては、これらは幻の配信になってしまいました。

スーファミ版が原作となった『クロノ・トリガー』は大ヒット後、1999年11月2日にPlayStation版が登場。PS版は、ゲームは基本的に同じでしたが、新作アニメーションムービーとおまけが付加されました。

2008年11月に発売されたニンテンドーDS版は、スーファミ版をベースにニンテンドーDSならでは演出と、新イベント、新システムが追加されました。

さらには2011年4月にニンテンドーDS版をベースとする携帯電話向けのiアプリ版、同年12月にEZアプリ(B)版を配信、同月スマートフォン向けにiPhone/iPod touch版、Android版を配信、2012年12月にはGoogle Play版、Amazon Androidアプリストア版を配信しています。そしてスーファミ版から23年後となる2018年2月28日、なんとWindows版がSteamにて配信されました。

こうして『クロノ・トリガー』は根強いファンに支えられ、今もなお名作と叫ばれつつ,そして現役ゲームとしても遊ばれています。ユーザー心理としては、しばらくするとまた『クロノ・トリガー』が遊びたくなるのですが、これは自分自身もレトロゲームの時代にタイムリープしたくなるのが原因なんではないかと思っています。

みなさまにも、機会があればまずは原作となるスーパーファミコン版の『クロノ・トリガー』をぜひ遊んでみてほしいですねー。

 

© 1995, 2018 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

Illustration: © 1995 BIRD STUDIO / SHUEISHA Story and Screenplay: © 1995, 2008 ARMOR PROJECT / SQUARE ENIX

 

BEEPの他の記事一覧はこちら

BEEP 読みものページ
VEEP EXTRAマガジン

BEEP ブログ

よろしければシェアお願いします!
著者紹介
髙橋ピョン太

1980年にフリーでパソコン用ゲーム開発を開始。『ボコスカウォーズ』PC-8801版の移植の仕事をきっかけにアスキー専属プログラマーになり、80年代前半~90年代にアスキーのパソコン雑誌『ログイン』の編集者に転向。
その後は、どっぷりと編集につかり、『ログイン』6代目編集長を経て、ゲーム、IT系ライターとなり、現在に至る。Xではレトロなハードやゲームについてつぶやいています。
髙橋ピョン太のX(https://twitter.com/pyonta)

PAGE TOP