【第2回】1000回遊べるRPG スーパーファミコン『トルネコの大冒険』

レトロゲームファン、BEEPファンのみなさま、こんにちは。パソコン雑誌『ログイン』出身のフリーライター、髙橋ピョン太です。連載第2回となる今回は、チュンソフト(現:スパイク・チュンソフト)の『不思議のダンジョン トルネコの大冒険(以下、トルネコの大冒険)』をテーマに選びました。

 

「不思議のダンジョン」シリーズ第1作は、おなじみのトルネコが主人公でした。

「不思議のダンジョン」シリーズはトルネコから始まった!!

当時はトルネコが主人公と聞いただけでワクワクしました。

 

1993年9月19日に発売されたスーファミ用のゲーム『トルネコの大冒険』は、今でこそ有名になった「不思議のダンジョン」シリーズの記念すべきシリーズ1作目の作品です。このシリーズは、今も新作が登場するほど息の長いゲームシリーズになりましたが、その成功はこの『トルネコの大冒険』から始まりました。

さて、不思議のダンジョンといえば、発売当時も話題になった「1000回遊べるRPG」というキャッチコピーです。当時は多くのファミコン少年少女が、「ん?」となりました。

不思議のダンジョンは遊ぶたびにダンジョンが変化します。

 

もっとも古くからのパソコンゲームユーザーの間では、「ああ、誰でも何回でも遊べるローグライクゲームね」とピンと来たゲーマーも少なくありませんでしたが、それでもローグライクなゲームを実際にプレイしたことがある人はそれほど多くなく、今はローグライクというだけでそのゲームがどのようなジャンルなのかは通じるようになりましたが、当時はなかなかひと言では理解されにくいゲームジャンルでした。

ローグライクゲームとは?

ローグライクゲームとは、1980年に登場したコンピューターゲーム『Rogue(ローグ)』のようなゲームのことです。このゲームはランダムに生成されるダンジョンを探索し、何度でも繰り返し遊べることが特徴でした。しかし、テキストベースの地味な画面や高い難易度から、当時は敷居の高いゲームとして知られていました。

代表的な『Rogue』のダンジョンシーン(写真はアスキーのPC-8801版)

 

そんな敷居の高い『Rogue』を、チュンソフトは一気に敷居を下げてくれました。

「1000回遊べるRPG」とうたう当時の『トルネコの大冒険』は、ダンジョンの形が毎回変わることを強調しています。そのダンジョンは、遊ぶたびに形が変わる奇妙なダンジョンだというのです。ダンジョン内に現れるモンスターも毎回変われば、手に入るアイテムも変わってしまう、まさに不思議なダンジョンです。

不思議なダンジョン内を探索するのは、『ドラゴンクエスト』シリーズではおなじみの武器商人トルネコ。このゲームは、『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』(1990年)に登場した武器商人トルネコの外伝的作品です。トルネコが世界一の武器屋を目指すために、不思議のダンジョンに入って素晴らしいアイテムを手に入れようというのがゲームの目的です。トルネコは、妻のネネと息子のポポロと一緒に暮らしています。トルネコがダンジョンから持ち帰ってくるアイテムやお金で、トルネコのお店がどんどん大きくなっていくというストーリーも一緒に楽しむことができます。

この村にお店を作るために王様に許可をもらってダンジョン探索を始めます。

 

手始めに地下10階から王様の「宝石箱」を持ち帰る試練に挑みます。

 

ちなみに『Rogue』では、プレイヤーはキャラクターを操作して、ダンジョン「The Dungeons of Doom(運命の地下迷宮)」の最下層にある「Amulet of Yendor(イェンダーのアミュレット)」を見つけ出して戻ってくることがゲームの目的でした。

『Rogue』は、自分の名前を入力してダンジョンに潜ります(写真はIBM版)

 

機種によってはちょっとだけグラフィカルな装飾ですが、すべてテキスト(写真はIBM PC版)

 

ゲームは、複数階層からなる毎回自動生成される地下ダンジョンを1階ずつ探索していきます。ダンジョンの各階には必ず地下へ降りる階段が存在しますが、ダンジョン内には無数のモンスターが徘徊しており、階層が深くなればなるほど強いモンスターが現れます。プレイヤーは、各階のモンスターを撃退しながら経験値を積み、自身のレベル(『Rogue』では階級)を上げていきます。階段を見つけてすぐに地下階に降りても、自分自身のレベルが低いとすぐにモンスターにやられてしまいます。

ダンジョン内には、モンスター以外にもプレイヤーに役立つ武器、防具、指輪、ポーション(薬)、魔法の巻物、魔法の杖、食料、金貨、その他の魔法のアイテムなどお宝がランダムに発生し、それらを手に入れることができます。

ここで何回でも遊べる要素のひとつとして、指輪、ポーション(薬)、魔法の巻物、魔法の杖などは複数の種類と効果があって、魔法を使って認識させるまでその正体がわからないという仕組みになっています。認識させることができる魔法の巻物を見つけることで、それらは一つ一つ正体が明らかになっていきます。

 

指輪が正体不明のまま。『トルネコの大冒険』では「識別の巻物」を読むことで正体がわかります。

 

アイテムは、プレイヤーがダンジョン内で倒されてしまうことで(ゲームオーバーになることで)、次のダンジョン探索ではまた正体不明になります。

また、ダンジョン内はおなかがすきます。最初の食料を食べたあと、食料がひとつも見つけられないと、餓死してしまいます。『Rogue』では魔法のアイテムと同様、食料も重要な要素です。そして、『トルネコの大冒険』も同じくパンという概念があります。『Rogue』同様、パンを食べないと餓死します。

ローグライクゲームはターン制

ゲームはターン制で進行します。プレイヤーは八方向に移動し、各部屋は通路で繋がれています。部屋にはモンスターやアイテムが配置され、罠や階段も存在します。プレイヤーが行動しない限り、モンスターも動かないため、戦略的なプレイが求められます。

ターン制をうまく活用してモンスターとの戦いを繰り返しながら、ダンジョンの深層階を目指します。途中でよい武器や防具が出ることを願いつつ、食料も枯渇しない程度に手に入れることができれば、よい冒険となるでしょう。しかし、まったく武器が出ないこともあれば、食料だらけになってしまうこともあります。これらは、すべて時の運です。

 

パンだらけになってしまうこともあります。こればっかりは時の運です。

時にはモンスターハウスに遭遇し、モンスターに囲まれてしまうこともあります。

 

こうした何回でも遊べる仕組みが『Rogue』にはあり、ローグライクゲームもこの仕組みをしっかりと踏襲しています。

元々『Rogue』は、UNIXというOSが動くミニコンのVAX・PDP-11用に作られたゲームでした。当時のコンピューターは、CPUとそれを操作するための端末(入出力端末)で構成されていました。今のパソコンとは大きく異なる構成です。CPUと端末は通信をしながら情報のやり取りを行います。開発者のマイケル・トイ氏とグレン・ウィックマン氏は、UNIXのキャラクター端末用に開発されたCursesライブラリを利用し、テキストベースのゲームを作りました。プレイヤーは「@」で表され、モンスターやアイテムもテキスト文字で表現されました。

『Rogue』は、日本でもアスキーが1985年にサービスを開始したパソコン通信のアスキーネット上で公開されたほか、1986年には同社がPC-8800シリーズやPC-9800シリーズ向けにパッケージ版を発売しました。それぞれ、やはりそれなりにヒットし、そしてファンも少なからず増やしていきましたが、多くの一般ゲーマーには理解されずに知る人ぞ知るという存在のまま数年がたちました。

 

アスキー版『Rogue』の広告は最初は『ウィザードリィ』の広告の一部でした(出典 ログイン1986年2月号)

 

発売から一年半後には1ページ広告に。地味ながらもヒット(出典 ログイン1987年10月号)

 

そんな時代にも『Rogue』はローグライクゲームとして、『Hack』や『Moria』といった派生系ゲームが誕生したり、あるいはグラフィカルな『Rogue』に生まれ変わったりとそれなりの変化がありました。

『トルネコの大冒険』は他のローグライクとは一線を画するゲーム

しかし、1993年に発売された『トルネコの大冒険』は、それまでのローグライクゲームとは違っていました。原作は『ドラゴンクエストIV』の堀井雄二さんだし、キャラクターデザインは鳥山明さん、音楽はすぎやまこういちさん、そして企画・開発がチュンソフト。というか、まんま『ドラゴンクエスト』シリーズだし、グラフィックもドラクエチック。アイテムも、武器のレベルを上げるのは「バイキルトの巻物」、防具のレベルを上げるのは「スカラの巻物」、混乱状態にさせる草は「メダパニ草」、いつでもダンジョンから生還できる「リレミトの巻物」などなど、あらゆる部分が『ドラゴンクエスト』の世界観。出てくるモンスターもドラクエの奴らで、どのモンスターが強いのかはすぐにわかります。武器や防具もおなじみのものばかりです。

 

なじみのあるアイテム名は、感情移入がしやすかったのも事実です。

 

はぐれメタルは、『トルネコの大冒険』でも人気のモンスター。

 

『トルネコの大冒険』はトルネコが持ち帰ってくるお金で、トルネコのお店はどんどん大きくなり、立派な店構えになっていきます。店が大きくなることで倉庫が使えるようになります。倉庫には、自分の気に入ったアイテムを保管することができ、かつ倉庫内のアイテムは次のダンジョン探索に持って行くことも可能になります(個数は限定)。また「リレミトの巻物」を手に入れることで、ダンジョン内で手に入れたアイテムすべてを持ち帰ることが可能で、この仕組みを使うことで、実は武器や防具を育てることができるのです。レベルを上げた武器や防具を最初から使えたら、ダンジョン探索が有利になります。しかし、ダンジョン内でモンスターに倒されたときは、すべてアイテムを失いますが……。

『トルネコの大冒険』は、一回のダンジョン探索でいくらお金を手に入れたかが評価の対象となり、それがランキングとして残ります。まずは、地下10階までは行けるようになって地下10階で「謎の金庫」を手に入れることで、たとえモンスターに倒されても手に入れたお金だけは全額持ち帰ることができます。そしてできれば地下20階まで潜れたら、今度は「リレミトの巻物」を確実に手に入れることができるので、いろいろなアイテムも確実に持ち帰ることができます。

 

ランキングは手に入れたゴールド額で順位が決まります。そしてどういう状況で終わったのもわかります。

 

最後は地下27階付近にある「しあわせの箱」を持ち帰ることでトルネコ一家には幸せが訪れるらしいのですが……。実は、まだ「しあわせの箱」を手に入れたことがありません。今回、久々にプレイをしてどうにか地下22階までは潜れたのですが、いやはやなんとも深層階は難しい。しかし、久々に遊んでみたら、その面白さはいまだに健在でしたね。1000回遊べるRPGは伊達じゃなかったです。今、本気で1000回遊んでみようかなという気持ちにもなっています。

『トルネコの大冒険』はその後、プラットフォームを換えて『トルネコの大冒険2』『トルネコの大冒険3』まで続きます。そして不思議のダンジョンシリーズは、新たに『風来のシレン』シリーズへと昇華し、続編は『風来のシレン5』まで続いたほか、ゲームボーイ版や携帯電話向け、スマートフォンアプリ、そして外伝と幅広く展開されました。2024年には驚きの完全新作Nintendo Switch版『風来のシレン6 とぐろ島探検録』が登場しています。

そのほかにも不思議のダンジョンシリーズは、『チョコボの不思議なダンジョン』シリーズ、『ポケモン不思議のダンジョン』シリーズが発売されています。今ではローグライクゲームは、不思議のダンジョン系といったほうが通じる時代となりました。

 

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著者紹介
髙橋ピョン太

1980年にフリーでパソコン用ゲーム開発を開始。『ボコスカウォーズ』PC-8801版の移植の仕事をきっかけにアスキー専属プログラマーになり、80年代前半~90年代にアスキーのパソコン雑誌『ログイン』の編集者に転向。
その後は、どっぷりと編集につかり、『ログイン』6代目編集長を経て、ゲーム、IT系ライターとなり、現在に至る。Xではレトロなハードやゲームについてつぶやいています。
髙橋ピョン太のX(https://twitter.com/pyonta)

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