【第30回】東京都板橋区「ひみつ基地アジト」~「さいとう玩具」など

東京都板橋区板橋。

学生時代のある期間、ほぼ毎日のように通ったボウリング場があった。大学のサークルにどうにも馴染めず、すぐに行かなくなった私は、同じくサークルに入らず暇を持て余した学友数名と連れ立ってボウリングに興じた。ことさら親睦を深めたいでもなく、ボウリングテクニックへの向上心があったわけでもなく、ただのボンクラ大学生が放課後を玉投げで埋めていたに過ぎない。しかし、このJR板橋駅からほど近い「東京プラザボウル」での怠惰なひと時が、今では大学時代の一番の思い出になっているのはなかなかに興味深い。

プラザボウル外観です

東京プラザボウルは板橋スカイプラザの地下1階にあったボウリング場だ。板橋スカイプラザは1971年に完成し、ボウリング場もその頃から営業していたというから私とほぼご同輩ということになる。1階はスーパーのLIFE、2階はテナントが入る商業フロア、そしてそこから上は住居となっている。ちなみにここの2階には「パーラーかなめ」という喫茶店があり、壊れたテーブル筐体が2台置かれていた。マスターに聞いた話だと、メンテ業者が飛んで修理がままならなくなったため邪魔な電源コードをちょん切ってしまったのだそうだ。豪快すぎる。
 大学時代は「パーラーかなめ」の存在にまったく気づいていなかったが、わりと近年になってから一度だけ訪れたことがあった。しかし昨年、ひっそりと営業を終了してしまっていた。写真は営業当時のものだ。

パーラーかなめ店内です

プラザボウルの地下フロアに立ってみると、まるでタイムスリップしたかように当時の記憶が蘇ってくる。入ってすぐ左手にゲームコーナーがあり、その隅の方に『ファイナルラップ』(ナムコ)の4台連結筐体があった。学生にありがちなモヤモヤした気持ちを発散するかのようにただボウリングに打ち込み、その後『ファイナルラップ』で黙々と戦った。なにかに大きな不満があったわけでもない代わりに熱くなれるものもなかった。毎日が気怠く過ぎていくだけの大学時代。

プラザボウル内の写真です

そんな『ファイナルラップ』があった場所もただのボール置き場となっていた。そして、このエッセイが掲載されるときにはすでにプラザボウル自体が営業を終了してしまっている。
メロウな出だしからスタートしたものの、どうにも暗い散歩になりそうな予感もしたので急遽、板橋在住の友人を呼び出し合流することにした。

中山道から旧中山道に入り、仲宿の交差点から東武東上線大山駅方面に向かう。学生時代は板橋区に住み、ここらへんを自転車で走り回っていたので土地勘はある方だ。板橋のゲームセンターもあちこち巡っていたが、いまやほとんど残っていない。Googleストリートビューのタイムマシン機能を使っても、古すぎる時代のためそれらのお店は確認できず、もはや自分の記憶の方も薄ボンヤリしはじめている。

大山には、学生時代にアルバイトをしたゲームセンターの事務所があり面接やら飲み会やらで訪れていた。遊座大山商店街を通り、途中に線路脇にあった伝説のゲームセンター「ゲーム平安 大山店」の跡地でしばししんみり。2003年7月にお店の入口付近を撮影した写真が残されている。なぜ店内の写真を撮っていないのか、悔やむばかりだ。

ゲーム平安の外観です

さらにパチンコやすだの上にある「ゲームサファリ」を冷やかす。関東と群馬県に店舗を構えるパチンコの安田グループは、東京では主に池袋と板橋を拠点としている。公式サイトでは明言していないがおそらく「ゲームサファリ」も安田グループの経営と思われ、大山と池袋、かつては仲宿にもお店があった。
東上線の待ち時間の長い踏切を渡ると、そこからアーケード街・ハッピーロード大山に入る。商店街ブラリ系番組で頻繁にロケが行われる街として知られるが、近年は再開発によるアーケードの一部解体とそれに伴う道路整備計画などが原因で大揉めに揉めていることでも話題となった。

ひみつ基地アジトの外観です

まず訪れたのは、大山ハッピーロード商店街にある「ひみつ基地アジト」。中に入ると駄菓子や駄玩具が並ぶちょっとおしゃれな駄菓子屋さんといった雰囲気だが、長いカウンターがあり、そこで昼間から一杯やることができるのだ。呑兵衛の友人はコエドビールを、私はスミノフアイスを駄菓子をつまみにチビチビと飲る。その間にも後ろでは、ひっきりなしに来店した子供たちが真剣な顔で駄菓子を吟味していた。

スナック菓子類の写真です

さらにこのお店の2階には10円ゲームコーナーがあるのだ。お馴染み「カーレース」や「キャッチボール」「ぐるぐるジャングル」「サーカス」など、個性豊かな盤面が並ぶ。また、週刊少年ジャンプを読んだり、プレイステーションミニを遊べたりと子供も大人もあまりお金をかけずに遊べる工夫が凝らされている。

10円ゲーム機の写真です

2階で子供が遊んでいる間に、1階のカウンターではお父さんが軽く一杯飲めるようにする仕組みはなかなかのアイデアだ。この夏、親子で入り浸りたいお店といえるだろう。ちなみに10円ゲームといえば、ここから歩けるくらいの距離に超有名スポット「駄菓子屋ゲーム博物館」もある。見たこともないような10円ゲームがズラリと並ぶさまは圧巻の一言。散歩にもちょうどいい距離なのでぜひ訪れてみてほしい。

さて、昼酒でほどよく気持ちよくなったところで、JR板橋駅の方に戻ってどこかで飲み直そうということに。普段やってるようなひとり散歩では、まず飲もうという発想にはならないので、友人と連れ立っての散歩というのもこれはまた新鮮でいいものだな。
JR板橋駅と東上線下板橋駅の間くらいにあるクラフトビールのお店「Tokyo Aleworks Taproom Itabashi」には、ピンボールの「ラスト・アクション・ヒーロー」(データイースト/1993)が置かれている。前にプレイした時はメンテナンスがやや不足していたが、そろそろ直ってるだろうか、などと思いつつ今日のところはスルー。

ピンボール機の写真です

線路を渡って板橋駅東口側に移動し、旧中山道から路地を1本曲がったきつね塚商店街の一角にある駄菓子屋さん「さいとう玩具」もちょっと覗いてみる。
こちらは「ゲームセンターCX」「モヤモヤさまぁ~ず2」でも紹介されたお店で、名前の通り元はおもちゃ屋さんだ。その時代ごとに様々な子供流行アイテムを導入しながら生き残ってきたが、現在はわずかな駄菓子をメインとしてじ~んわりと営業している。付き合いのあった駄菓子問屋もどんどん減ってしまい、それが無くなったら潮時かな、とご主人は世間話のついでに話してくれた。

MVS筐体SC19の写真です

もはや故障して動かないという埃を被ったネオジオ・MVS筐体には「メタルスラッグ」(SNK)の2(1998)、X(1999)、3(2000)、そして「神凰拳」(SNK/1996)が入っていた。よく観察すると筐体にはタイトーのシリアルナンバーシールが貼られ、複数あるメンテナンスシールらしき最新の期日は「20 05」だ。あれ? 案外新しい?
さらにその下を見ると、ガラスのショウウィンドウの中には、スーファミの「ダライアスツイン」がポツリ。なにか、謎解きを感じさせるタイトーつながりだ。

ゲーム筐体の写真です

もう一台の駄菓子屋ミニアップライト筐体には、「X-MEN VS. STREET FIGHTER」(カプコン/1996)のインストが入っていた。プレイ料金は駄菓子屋価格の30円だ。かつての激戦ぶりを物語る年季の入ったコンパネの様子に思わず胸が熱くなる。
子供たちの流行を支え続けたおもちゃ屋さんもまた、世の時流には逆らえずその数を減らし続けている。ジジィの戯言と言われるだろうが、熱気あふれる時代からその衰退までの過程すべてを体験できたことは、本当によかったなと思っている。

いつもなら最後はお風呂に浸かってエンディングというところだが、お酒も入ってるし今日はやめておく。代わりに、映画「テルマエ・ロマエ」にも登場した昔ながらの宮造り銭湯・稲荷湯のすぐ脇にある湯上り処「稲荷湯長屋」で〆ることにする。
稲荷湯は1913年から営業し、現在の建物は1930年に完成。国の登録有形文化財にも認定されている老舗中の老舗だ。その隣りにある稲荷湯長屋は、銭湯の従業員の住まいとして使われていた二軒長屋を近年再生させたカフェ&バー兼コミュニティスペースだ。こちらも同じく国の登録有形文化財として認定されている。

稲荷湯の外観です

学生時代は毎日のようにこの近辺を行ったり来たりしていたのだが、ゲームセンターと古本屋ばかり攻め込んでいた。その当時からそこにあったハズの「さいとう玩具」も「稲荷湯」もまったく視界に入っていなかったのである。
人は自分の興味のあること以外はとかく視野が狭くなるものだ。それ自体は別に悪いことではないが、ちょっと勿体なかったなと今になって感じる。きっと自分が今住む街にも見逃しているものはたくさんあって、それを知らぬままに終わることばかりなのだ。
たまには、まったく視点を変えて街をブラつくのもいいかもしれない。あと、独りでの散歩も気楽でいいが、気のおけない友人と歩くことで見えてくるものもあるんだなという気付きのある、いい1日になった。

 

過去の記事はこちら

さらだばーむ ゲームある紀行

 

BEEPの他の記事一覧はこちら

BEEP 読みものページ
VEEP EXTRAマガジン

BEEP ブログ

よろしければシェアお願いします!
著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

PAGE TOP