【第1回】さりげなく新しいRPGの形を提示した名作 スーパーファミコン『牧場物語』

レトロゲームファン、BEEPファンのみなさま、こんにちは。私はアスキーという出版社のパソコン雑誌『ログイン』出身のフリーライター、髙橋ピョン太と申します。

1980年代の初めからコンピューターゲーム業界に携わり、ファミリーコンピュータ(以下、ファミコン)やスーパーファミコン(以下、スーファミ)の誕生を生で経験してきた、超レトロなゲーマーのひとりです。今回から私、高橋ピョン太がスーファミの時代のレトロなゲームの当時のお話をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、第1回はパック・イン・ビデオ(現:マーベラス)の『牧場物語』をテーマに選びました。

『牧場物語』は今も続く人気ゲームシリーズ

1996年8月6日に発売されたスーファミ用のゲーム『牧場物語』は、プラットフォーム(動作するゲーム機)は変わったものの、現在も続く人気のゲームシリーズです。まもなく28周年を迎える『牧場物語』は、すでに30作を超えるシリーズタイトルが出ており、また現在新作が鋭意開発中であることもマーベラスから発表されています。つまり、『牧場物語』の人気は地味に脈々と続いているんです。みなさん、ご存じでしたか? もっとも一度でも『牧場物語』をプレイしたことがある方は、当然、それに気づいていて、なんなら新作情報は常に気になり、毎回チェックしている人は少なくないですよね。

今回この記事を書くにあたって、また久々にスーファミ版の『牧場物語』始めてみました。現在、私はスーファミ本体を家のどこかに封印をしてしまったため(どこかにあるはずなんだけど……)、最初はスマートフォン(Android)で動作するスーファミのエミュレーターを用意しました。幸い『牧場物語』のROMは持っているので、そのROMイメージをファイル化しエミュレーターに読み込ませました。当時の攻略本まで引っ張り出してきて、もう準備万端です。

Android用エミュレーターアプリ『Snes9x EX+』と『牧場物語』。Bluetoothのジョイパッドを接続して遊んでいます。

 

当時の攻略本とスーパーファミコン用『牧場物語』のROM。

 

準備をした段階で私は、『Nintendo Switch Online』のスーパーファミコンで『牧場物語』が配信されていることに気づいちゃいました(もっと早く気づけよ)。「あ、ならAndroidのエミュレーターよりも、Nintendo Switchのほうか良くない?」と自問自答しました。そりゃ、本家のほうが恐らく安定してますよね。ということで、私は早速Nintendo Switchでスーファミ版『牧場物語』をプレイすることにしました。もちろんROMがあるのでスーファミ本体を用意するのが一番なんですが……。

なんと『Nintendo Switch Online』のスーパーファミコンで『牧場物語』が配信されていました。

ジャンルは「ほのぼの生活ゲーム」?

スーファミ版『牧場物語』は、ゲームジャンルでいうとマーベラス自身は「ほのぼの生活ゲーム」とも呼んでいますが、一般的なカテゴリーでいうと「シミュレーションゲーム」にあたります。しかし、今では「農場ゲーム」といえば通じるのではないでしょうか。当時は、『牧場物語』以前に農場ゲームがなかったので(あったとしてもヒットしたものはない)、農場ゲームといわれてもピンときませんでした。

つまり、『牧場物語』は元祖農場ゲームのひとつなのです。

当時はパック・イン・ビデオから発売されていた初代『牧場物語』。

 

牧場物語シリーズの記念すべき第1作となったスーファミ版『牧場物語』では、ゲームプレイヤーは「花の芽村」にて牧場主を目指します。主人公の男子は祖父の残した牧場を3年で再建することが目的です。一応、牧場の基本施設はあるものの、その地は荒れ果て、開拓をしなければ農地にはならなそうだし、牧場といえども牛や馬もいません。あるのは基本的な農具だけです。

祖父の牧場は荒れ果てていました。まずは切り株と岩を取り除かなければ……。

 

ゲームの舞台となる花の芽村は、村と山、それと牧場の三カ所を行き来する、ちょうどRPGのフィールドのような構成です。まずは村にいって村民と話をすることが大切です。これから牧場を再建していく牧場主として挨拶をすることで、この村のしきたりを理解します。どういうことかというと、牧場で作物の育成や動物のお世話、自宅の増築などで牧場を発展させていく方法を村の人から聞き出す必要があるのです。

主人公は、最初、お金がほとんどありません。村人と話すことで、花屋さんはじょうろをくれるし、家畜屋さんは余っていた牧草の種をタダでくれます。道具屋さんは道具の使い方を教えてくれます。これから、まず荒れた地の雑草や石・岩、切り株等を取り除き、農具で畑を耕し、そして買った種を蒔いて畑で育てます。育てて収穫した作物は夕方まで牧場の出荷箱に入れておけば村人が回収して、その対価を次の日に入金してくれます。まずは、こうした村のしきたり(ゲームの進行)を学び、資金を稼ぎます。

畑に蒔いた種は、毎日水をあげないと育たないし、実が成らないと出荷できないし、収入が途絶えます。収入を増やして畑を拡張しないと儲かりません。

作物は慎重に運ばないと出荷できなくなります。収穫はうれしい作業。

 

ある程度の資金が貯まれば、鶏や牛が飼えます。鶏は卵を産み、牛はミルクを生産することができます。これらも収入源になります。しかし、家畜はたくさん牧草が必要で、牧場主は作物以外にも鳥や牛の数だけ牧草も収穫しておかなければなりません。花の芽村の作物は、春と夏にしか収穫ができないので、実は家畜を殖やすことも重要な要素なのです。

主人公は一日にできる作業量が決まっているため、作物の水やり、家畜への餌やり、出荷できるものがあれば夕方までに出荷しないとお金にもなりません。そして同時に荒れ地の開拓の優先順位をうまくやりくりしていかなければなりません。特に切り株を除去することで得られる建材も一定数確保しておく必要があります。建材は、牧場の柵にもなるし、山にいる職人さんに自宅の拡張を頼む際にも必要な素材です。

せっかく育てた家畜が病気になることもあります。早く治療しなくては。

 

鶏は餌をあげ忘れると三日も卵を生まなくなるので、世話を怠れない。

 

とにかく毎日が大忙しのゲームなのです。そんな中で、日々の牧場生活の中で起きる様々な村のイベントにも付き合いながら、村人との交流も忘れてはなりません。なぜならば、この村人の中からお嫁さん候補を見つけ出し、その女の子との恋愛・結婚も楽しめるからです。牧場の再建には、結婚もひとつの彩りでしょう。家畜と無関係に犬や馬も登場し、それぞれ牧場の生活には欠かせない存在となります。

また、『牧場物語』にはコロボックルや妖精さんなども登場し、不思議なイベントも満載で、農機具をアップデートしてくれる要素もあります。どの農機具も金の農機具になることで、日々の農作業を格段に効率あげてくれるものになります。

すべての農機具が金の農機具になりました!!

『牧場物語』は元祖農場ゲームのひとつ

こうした作業を毎日繰り返し、より大きな牧場を目指します。これは、もう育成系であり、経営シミュレーションであり、戦わないRPGという印象でもあります。そう、これが農場ゲームの基本ですよね。

農場ゲームは、『牧場物語』の登場とヒットののちに、一ジャンルとして確立し、その後に登場するミクシィ上でプレイできたRekooの『サンシャイン牧場』(2009年)やFacebook上でプレイできたZyngaの『FarmVille』(2009年)など、いわゆるソーシャルゲーム系の農場ゲームへと発展していきました。これらのゲーム開発者が『牧場物語』をプレイしたり意識したりしたかは定かではありませんが、少なくともユーザーレベルでは農場ゲームはハマる深い沼があることを知りました。

ゲーム業界でいうならば、ファミリーコンピュータ(以下、ファミコン)で華開いた家庭用ゲームの世界は、スーパーファミコンの時代になって、様々なゲームジャンルが確立していった時代でもあったと思います。

ハードウェアの進化とゲームファンの成長とともにゲームの完成度が増し、探り探り開発をしてきたゲームのジャンルも、それぞれの方向へ深度が増していき、こうした農場ゲームが確立していった時代を迎えたんだと思います。特にスーパーファミコンの表現力は、当時はそれなりに最先端のテクノロジーのひとつで、処理能力や記憶容量の高さも黎明期のアーケードゲームの能力を上回り、また汎用性重視の当時のパソコンよりもスーパーファミコンのほうがゲームの表現力は勝っていました(性能を比べるものではありませんが)。

『牧場物語』を始めとする農場ゲームのやめられない止まらない、やめ時を見失ってしまうゲームは、スーパーファミコンだったからこそ誕生したんだと思います。

『牧場物語』シリーズは、その後にゲームボーイやゲームボーイカラーなどで新作が誕生します。それらの中には、主人公を男女選択できたり、作物の種類が増えたり、イベントの数や方向性が多種多様に発展するなど、それはもうシリーズ展開は広範囲なものとなりました。ベースとなるハードウェアのスペックがあがり、中には古くなった作品のリメイク版なども登場するなど、気がつけば数十作品のシリーズへと成長しているんですよね。

やった、ニーナと結婚できました。ニーナのために、もっと牧場も大きくしないと。

 

今でも色あせないスーファミ版『牧場物語』を、ぜひこの機会に遊んでみてはいかがでしょうか。私は、今、一周目で花屋のニーナと結婚できたので、次は他の女の子にアタックしてみたいと思います。

 

©AMCCUS/Marvelous Inc.

 

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著者紹介
髙橋ピョン太

1980年にフリーでパソコン用ゲーム開発を開始。『ボコスカウォーズ』PC-8801版の移植の仕事をきっかけにアスキー専属プログラマーになり、80年代前半~90年代にアスキーのパソコン雑誌『ログイン』の編集者に転向。
その後は、どっぷりと編集につかり、『ログイン』6代目編集長を経て、ゲーム、IT系ライターとなり、現在に至る。Xではレトロなハードやゲームについてつぶやいています。
髙橋ピョン太のX(https://twitter.com/pyonta)

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