【第27回】埼玉県さいたま市「宝島 浦和美園」~「駄菓子屋えーる」

さいたま市緑区美園。

金曜日の午後、柔らかな日差しの中で埼玉高速鉄道線に揺られていた。
なぜ平日にあまり仕事で使わなそうな路線に乗っているかを説明すると話が長くなるため割愛するが、この日は南北線の溜池山王駅から乗車。先へ進むごとに乗客数が減っていき、赤羽岩淵駅から埼玉高速鉄道線に入るとさらにぐっと人が少なくなった。

ほどなくして埼玉高速鉄道線どん詰まりの終着駅・浦和美園駅に到着。
浦和美園駅は、埼玉スタジアム2002の最寄り駅として主にサッカーの試合が開催される時に大混雑する駅というイメージだ。もっとも、埼玉スタジアムから駅までは1.2kmほど離れており、歩くと15分程度かかる遠さではある。
そんな埼玉高速鉄道線には延伸計画があって、埼玉スタジアム、岩槻、蓮田まで至るルートが検討されているらしい。さらには白岡、久喜、加須を経由して、BEEP本社のある羽生まで延伸する構想もあるそうなので、もし開通したあかつきには買取品をよりスムーズにBEEPまで持っていけるワケだ。たぶんあと30年もすれば結果が出ていると思うので、その日を心待ちにしてほしい。

イオンモールの外観です

埼玉スタジアムとは駅を挟んで逆側すぐに位置するのが、イオンモール浦和美園店。東北自動車道浦和インターチェンジ、越谷浦和バイパスの脇にあり、自動車交通至便だが、土日の周辺道路は否応なく大混雑という郊外型巨大ショッピングモールも、平日は至ってのんびりした平和な空気を醸し出している。
シネコン側入口のエスカレーターで2Fに上ってすぐ見えてくるのが、「宝島 浦和美園」だ。クレーンゲームなどプライズ系を中心にしたゲームセンターで、他にもメダルゲーム、キッズライド、プリクラなどが広い敷地内にゆったりと設置された、いわゆるイマドキのゲーセンといった感じ。

宝島の外観です

中にはいくつかの大型ビデオゲームがあり、ひときわ異彩を放っているのが本日の目的である『アウトラン2 SP DX』だ。
セガの『アウトラン2』は、2003年に稼働を開始したアーケードドライブゲーム。『アウトラン』(1986)、『ターボアウトラン』(1989)、『アウトランナーズ』(1993)と続く“アウトラン”シリーズの正統ナンバリングタイトルだ。
2004年には『アウトラン2 SP(スペシャルツアーズ)』へとバージョンアップを果たし、さらに『アウトラン2』稼働から3年後となる2006年に、筐体4台・8人同時プレイが可能な『アウトラン2 SP SDX(スペシャルツアーズ スーパーデラックス)』をリリース。翌2007年には筐体2台・4人同時プレイが可能な『アウトラン2SP DX(スペシャルツアーズ デラックス)』(以下『SPDX』)が発売された。『SPSDX』の方はさすがにデカすぎて街のゲームセンターに設置できるレベルではなく、私は八景島シーパラダイスでしか見たことがない。

 アウトラン2SPのDX筐体です

『SPDX』がゲームセンターに並んだ2007年は、前年の12月にWiiが発売となり、PSPの『モンスターハンター ポータブル 2nd』がミリオンを達成した頃。家庭用ゲーム機が大きな盛り上がりを見せていた時期であり、それに対してアーケードビデオゲームは年々その数を減らし、明らかに精彩を欠いていたのだった。
そんな2007年のある時、新宿・歌舞伎町にあったゲームセンターで『SPDX』にバッタリ出会った。これはその時の写真だ。

アウトラン2SPの画面です

そもそも『アウトラン2』が大好きで、ゲーム下手なのにたまにクリアできるくらいまでにはやり込んでいたが、『SPDX』とのファーストインプレッションはあまりよろしくなかった。無駄にバカでかいドライブ筐体には何故か1台につきハンドルが2つ取り付けられている。どういうことかとインストラクションカードを読んでみたら「2人ドライバーシステム:ぶつかるorステージの分岐でドライバーが交代!」と書かれていた。
どうもピンとこないので友人とプレイしてみると、運転中に自車が敵車に激突するとハンドル権が隣のプレイヤーに移行するという謎の仕様だった。車の間をすり抜けようとしてぶつかるといきなり友人に操作権が移動し、それに慌てた友人がすぐ激突して、またこちらにハンドル権が戻ってくる。毎回心の準備の出来ぬままにドライバーがコロコロと入れ替わりながら大騒ぎをしていると、あっという間にゲームオーバーに。

 『アウトラン2』は簡便でわかりやすいドリフトが楽しめるおおらかさと、意外にテクニカルな繊細さを持ち合わせたドライブゲームという認識だったため、運転中にコロコロとドライバーが入れ替わるシステムはどうにも不可解で、「なんだこのパーティゲーム……』と呆れてしまった記憶がある。その頃すでに大型筐体ゲームのリリースがめっきり減っていたということもあり、セガ体感ゲームの終焉を強く印象付けられてしまったのだった。

 あれから17年。実際、あの後に『SPDX』には1、2度しか遭遇しなかったし、あまり好印象もなかったためそのままスルーしてしまっていた。そんな『SPDX』が、浦和美園イオンにあると聞いて、なにかのついでに組み込んでふらっとやってきたことがあった。その時はひとりだったため普通にソロプレイをしたのだが、当然のことながらひとりでやる分には普通の『アウトラン2 SP』であり、ムービングする大型筐体にすっかり魅了されてしまった。

アウトラン2SPのコントロールパネルです

 Ferrari Dino 246GTを模した大きなドライブ筐体の左側シートに腰掛けてみる。やや深めのドライブポジションを調整しながら右を見ると、そこにもうひとつシートがあり、さらにその奥に赤いF50筐体のシートが2つ並んでいるのが見える。この広々としたセッティング……なんかバブリー……! 17年前は「イマドキこんなバカでかい大型筐体とか、夢をもう一度って感じでおめでてぇな」などとイヤな感じに穿った見方をしていたが、それが今はなんとも愛おしく感じるのだから、時の流れかはたまた単なる老いかはわからないが不思議な感覚になる。

ハンドルとアクセル、ブレーキは1シートに1つずつ付いているのだが、シフトレバーだけは2つのハンドルの真ん中あたりに共用の形で1本置かれている。やったことはないのだがマニュアルトランスミッションを選択した場合には交互に使うことになるのだろうか?
そうなると右側シートは日本車仕様、左側シートは外国車仕様という奇妙な状態になってしまう。シフトレバーの位置でいえば、初代『アウトラン』は左側に付いた日本車仕様だが、『ターボアウトラン』以降はすべて右側にシフトレバーが配置してある。初代『アウトラン』のアップライトタイプも右側シフトであり、これはやはり海外を意識した結果なのかもしれない。まぁ運転するのがフェラーリなのでそれが当然なのだが。

アウトラン2SPのDX筐体です

しばらくいろんな角度から眺めた後、100円を投入してプレイしてみる。このサイズの大型筐体をたった100円で遊べるとは本当にありがたい。ハンドルに軽くブレがあるように思えたが、DXタイプならではのハンドルの重量感、低く唸りを上げるモーター駆動によるムービング感覚は上々。画面はやや暗めにセッティングされていて、トンネルなどが見づらいところも。しかし、走り進めるごとにグイグイとゲームの世界へと没入していく感覚はこの筐体でしか味わえないだろう。

 『アウトラン』は初代が圧倒的に人気があり、続編はマイナーな部類になってしまっている印象がある。『ターボアウトラン』も『アウトランナーズ』も比較するのではなく、単独のドライブゲームとして目指したそれぞれの楽しさがあるように感じられる。中でも『アウトラン2 SP』は比較的新しく、まだ稼働しているのをたまに見かけるので、機会があればぜひ遊んでみてほしい。セレクトできるミュージックは『アウトラン』のアレンジ3曲より、新曲をおすすめしたい。「NIGHT FLIGHT」「LIFE WAS A BORE」をバックにかっ飛ばせばもう最高だ。

アウトラン2SPの画面その2です

じつは「宝島 浦和美園」は、6月16日をもってリニューアルのために休業することがアナウンスされていた。ゲームセンター「宝島」を運営していた株式会社宝島は、2022年にGENDA GiGO Entertainmentの傘下に加わり、元の株式会社宝島は解散している。GiGOグループはセガのアミューズメント施設部門を再編した企業で、この「宝島」だけでなく「プレビ」「あそびのひろば」などを運営してきた会社をM&Aで次々と子会社化し、巨大アミューズメント企業として発展しつつある。これは様々な要因から苦難の道が続いているアミューズメント業界の再統合を図る試みであり、業界にとっては決して悪いことではない。

そしてこのリニューアルのタイミングでゲームセンター「宝島 浦和美園」は、改めて「GIGO 浦和美園」として生まれ変わることになる。気になるのは『アウトラン2SP DX』がどうなるかだ。
近くにいた店員さんにそれとなく尋ねてみたところ、おそらく残るんじゃないかとやや希望を含んだような返事が返ってきた。とはいえ、相応のインカムがあってこその話だし、すべてをリニューアルするということになれば、撤去されてもおかしくはない。リニューアルは2024年夏とのことだが、具体的な日程はまだ明かされていない。ぜひこの貴重なマシンが店舗リニューアル後もお目見えすることを期待したい。

アウトラン2SPのDX筐体その2です

せっかくここまで来たので、なにか食べて帰ろうかと思ったが、平和な平日のイオンでここだけ異様に殺気立つフードコートはやめておこう。このあたりはバイパス沿いということもあり、そちらのほうを歩けば飲食店はありそうだ。
イオン引力圏から遠ざかるごとに、景色は少しずつお馴染みの日本の街道沿いへと変化し、落ち着いた雰囲気になっていく。そのままバイパス沿いをテクテク歩いていくと、かねてよりチェックしていた「駄菓子屋えーる」というお店にたどり着いた。
ここの店頭には、硬貨を弾いてゴールへと導く10円ゲームが1台置かれているのだ。店内でラムネを買い求め、パリからダカールまでを走破するパリ・ダカールラリーをイメージした10円ゲームをプレイする。そういや今日は平日でもうじき夕方ということもあり、余計に放課後感が出ている気がした。

10円玉ゲーム機です

そこからさらに東へ進んだところに、民家と一体化したシブいお店「大土食堂」が見えてきた。引き戸をガラガラと開けてみると、なぜか店内は真っ暗。アレ? 営業中って看板出てたけど……と不安になっていたら、奥からお店のお母さんらしき人が出てきて電気を付け、席へといざなってくれた。
ヤレヤレと腰を下ろし、壁に貼られた味のあるお品書きを順番に眺めていく。行ったり来たりしながら熟考し、出した結論は「もつ煮込み定食」。結局最後は気分で決まるものだ。

もつ煮定食の写真です

しばらくして運ばれてきた「もつ煮込み定食」は、なんとも言えずビジュアルが強い。柔らかく煮込まれたもつは臭みもないあっさり系。なめことお揚げの味噌汁もお出汁がちょうどいい具合で合間合間に一口やるのによさそうだ。味付け海苔の存在も食べ方のバリエーションを組み立てるうえで、地味に嬉しい。
 巨大ショッピングモールのフードコートも好きな方だが、今日みたいな日に落ち着きたいならやっぱりこれだよな……と味噌汁をすすりつつ相好を崩す。もしも、『アウトラン2』に再登板がかかったら、またここまで来ようかな。その時は絶対「肉ニンニク焼定食」だな、などと薄暗くなっていく外を眺めながら心に決めた。

浦和美園駅の外観です

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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