神奈川県高座郡寒川町。
JR相模線の倉見駅前はなかなかに寂しい。
駅の西側上空に高速道路が走り、そのすぐ後ろが相模川となっているため、駅の出入り口はその逆側ひとつしかなく、出入り口付近にはコンビニどころか商店もまばら。なんだか住むにはちょっと不便かも、と感じるかもしれないが、実は寒川町は神奈川県の町の中で最も人口が多い町で、同じ神奈川でいえば三浦市、南足柄市を上回る。さらに、人口密度はなんと厚木市よりも高く、東日本で最も人口が多い町なのだそう。事前に軽く調べていたこうした情報を持って実際に見てみると、誠に失礼ながらちょっと信じがたい。それくらいのどかで気持ちのいい町並みが続く中をテクテクと歩きはじめる。
それは昨日のことだった。
パソコンに向かい仕事をしているとショートメールが着信した。チラリとスマホを見ると『明日からセールをやりますのでぜひ来てください』という、スパムとしか思えないメール。スマホを置き、気を取り直して仕事に戻ったのだが、どうも何かが引っかかる。メールの送り主の「タイムマシーン」ってわりと最近どこかで聞いたような。しばらくして思い当たったのが、今年3月くらいに行った雑貨屋さんだった。お店まで行ったはいいが閉まっていて途方に暮れたのだが、入口のドアに「もし居なかったらココに電話して」と電話番号が書かれていた。ちょっと迷いつつ電話してみると、すぐにお店に駆けつけてくれた。その時の着信履歴からショートメールを送ったということのようだった。
普段なら無視を決め込むところだが、ちょうどまた行ってみようかなと思っていたタイミングだったことと、今日いっぱいで仕事にカタがつく目処がついたこと、そしてセールでお安くなるという三条件が重なり、天気もいいしブラっと行ってみることにしたのだ。
お店に行く前に、まずはお昼を食べて腹ごしらえをすることにした。このあたりは飲食店も少なく、街道沿いにチェーン店がある程度だったが、よさげな中華屋さんがヒットしたのでそこに向かってみる。
中華か……何にしようかな。涼しくなったし温かい麺類かな。いやご飯ものでガツンといくのもいい……などと脳内でシミュレーションをしながらお店に到着するも、やってない……? 今日は祝日だけど営業してるはずだし、換気扇はまだ回ってる。時刻は13時半……しまった! 昼営業は13時半までか。痛恨の確認ミスだったが仕方ない。さっき前を通ったゆで太郎でサッと済ますことにしよう。
もつ次郎・ゆで太郎の複合店だったのでおなか的には十分満足し、目的の店に向かう。駅から歩くとおよそ30分程度かかる距離なのでバスを調べてみたが、ちょうど行きたい近辺をバスが走っておらず、歩く以外の手段がない。まぁ、季節も散歩に最適なシーズンになったので特に不満もないが。
左手にキリンビバレッジ湘南工場を見ながらさらに進むと、町並みは住宅街に変わっていく。果たしてこんなところに雑貨屋さんがあるのかと不安になりはじめる頃、突然ちょっと不思議な建物が見えてくる。
倉庫のような集合住宅のようなこの建物が、目的地の「湘南コレクターズモール タイムマシーン」だ。
店舗は2階なので、錆びた鉄階段を上って店内に入るとそこは一面モノで溢れかえっている。元々はこの雑貨店のご主人がアメリカンアイテムが好きでコレクションしていたところに、途中から昭和レトログッズも集めはじめ、ついにはそれを売りはじめたというのが経緯らしい。わりと自制が効くタイプのコレクター気質の自分とは明らかに違う情熱の注ぎ方がこの店内に凝縮している。
まずは、見た目こそやや厳ついが、めちゃくちゃ優しく話好きなご主人に挨拶してから、店内の品を見はじめる。一応、先に言っておくとゲームソフトや関連グッズは少なく、スーファミソフトやファミコンソフトがチラッとある程度だ。箱入りのプレステがあったり、どっかにスーファミが眠ってるはずというご主人の情報があったりもしたが、到底見つかる気はしない。それよりも、なにかお宝が眠っているかもという期待を抱きつつ丁寧に店内を掘っていくのが、このお店の正しい向き合い方だと思う。
ゲームもないのになぜ「ゲームある紀行」でこの店に来たのか?
実は家庭用ゲームは少ないが、テーブル筐体が置かれているお店なのだ。さらに『ジャンケンマン フィーバー』(サンワイズ/1987)もある。
改めて店内をぐるりと見渡すと、以前はあったゲーム機が幾つか無くなっていることに気づいた。タイプライターやインスタントカメラが無造作に置かれた、ご主人いわく「野球ゲーム」が入ったテーブル筐体が姿を消し、ジャンケンマンの隣にあった『宇宙 THE UNIVERSE』という10円ゲームも消えていた(写真は2023年3月のもの)。どこかに買われていったのかな。
あれ、奥の方でなぜか古着に埋もれていたイーグルの10円ゲームもいなくなってる! 結構売れちゃうもんだなぁ。このお店では、これら業務用ゲーム機もれっきとした売り物なのでいつまでもそこにあるわけじゃないのは気をつけたい。
ご主人に聞いたところによると、ここから相模線一本で行けるレトロ自販機の聖地、中古タイヤ市場 相模原店に引き取られていったようだ。それなら近いうちにあちらでお目見えするかもしれない。
2023年11月現在で残っているのは、IN 1基板の入ったテーブル筐体2台とインストラクションカードが何故か『麻雀カフェドール』の『麻雀 宇宙の神秘』(ダイナックス/1994)、そして任天堂の『スペースフィーバー』(1979)純正台だ。スペースフィーバーと麻雀はモニターがやや不調らしく、近くの業者のおじいさんに修理を頼んだものの直せなかったということらしい。腕に覚えのある方はお店で確認してから検討してみるのがいいかも。
実はこのタイムマシーン、閉店するかもしれないとのこと。今年の夏は暑さもあってかかなり売上が悪かったらしく、ご主人はすっかりヘコんでいた。もっとも、閉めるにしてもこのお店の物量を一気にさばくには時間も手間もかかることだろう。それもあってセールの案内を送ってくれたようだった。
テーブル筐体に興味がある人だけでなく、レトロ系の雑貨に興味がある方はぜひ訪れてみて欲しいお店だ。骨董、レコード、古着、雑誌、グッズ類などが宝探し感覚で楽しめる。
なお、掘り終わった後は間違いなくホコリで手が汚れているから、ご主人に言って手を洗わせてもらうのをお忘れなく。
映画のパンフレットやレコードなどを幾つかつまんでお会計してもらったところで、軽くテーブル筐体でゲームをプレイしてから帰ることにする。
選んだのは『NEWラリーX』。あ、縦画面だから、縦仕様のラリーXなのか。ゲームがスタートすると店内に響く軽快な音楽。なんというか、とてもいい時間を過ごしている。できればもっと長く営業を続けてほしいなと心からそう思った。
ご主人に別れを告げて外に出たときには、もうすっかり日が傾いていた。随分長い時間店内にいたようだった。なるほど、だから“タイムマシーン”なのか。
駅に向かって戻っている最中、ふとお昼に入り損ねたお店のことが頭をよぎった。そうか、夜営業は確か17時からだったからいいタイミングなんじゃないか。
目的地をその店「好来」に切り替えて、到着時刻は17時ちょうど。看板にも蛍光灯が点ってなんともいい雰囲気だ。
店内に入ってみると、少し早かったのかご飯がまだ炊けていないという。麺類ならできるとのことだったのでチャーシューメン650円を頼んでみる。ここも住宅街の一角にあるお店で、夜は飲み屋も兼ねているようだ。
しばらくして近所の常連さんたちが訪れ、夜の酒盛りが始まった。その隅で、シンプルで美味いチャーシューメンを啜る。「孤独のグルメ」の井之頭五郎がたまに巻き込まれるパターンのアレだ。
お会計をしている時、ふと壁をに目をやると「タイムマシーン」のチラシが貼ってあった。ご主人頑張ってるじゃないか。きっとまだまだやれるはず。
外に出るとすっかり日が暮れてあたりは真っ暗に。さあ、お家に帰ることにしよう。
ちなみに、その後の調べで、タイムマシーンから中古タイヤ市場相模原店へと移籍した10円ゲーム機たちは、現在元気に稼働中であることが判明。
やはりゲーム機はみんなに遊ばれてこそ、だ。
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