【第3回】千葉県成田市・空港~航空博物館

千葉県成田市三里塚。

空港にはいつ来ても不思議な高揚感がある。
これから飛行機に乗って旅行に出かけるわけではないし、誰かの見送りやお迎えに来たということでもない。本当にただ“来ただけ”なのに。

ようやくコロナも落ち着いた日本にやってきた海外の方々が大勢いるチェックインカウンターの並ぶフロアを歩いているだけで、じわじわと空港ならではの雰囲気にのまれていく。
ドラマや映画なんかだと、空港は事件の現場になるパターンも多い。高飛び寸前の凶悪犯を取り押さえる刑事、テロリストによるハイジャックと仕掛けられた爆弾。何が起こってもおかしくない非日常への玄関口、それが空港のイメージだ。

そんなドラマチックな妄想に足元をフワフワさせながら、先ほどから成田空港第1ターミナルの5階あたりを行ったり来たりしている。

成田空港の外観です

空港にもゲームコーナーがあるということに気づいたのは新潟空港だった。いつものように特に用事もなく新潟空港を訪れブラブラしていると、ふとフロアの隅っこに『ランディング ハイ ジャパン』(タイトー/1999)がポツンと置かれているのを発見した。日本国内の空港からの離陸と着陸を体験できるフライトシミュレーションゲームで、ANAが協力している本格派、というのがウリだった。
これで気になって、Google Mapで調べてみたところ、新潟空港と松本空港、それに成田空港にはゲーム機が置かれているとわかった。実際2014年の成田空港で、JALが協力したフライトゲーム『エアラインパイロッツ』(セガ/1999)を見たことがある。下の写真はその当時に撮ったものだ。やはり、飛行機をテーマにしたゲームが設置されるのが定番のようだ。余談だが、アーケードゲームではなくフライトシミュレーターが設置されているケースも多くの空港で見られた。

エアラインパイロッツの筐体です

2023年6月現在、ネットでの調査では成田空港に置かれたゲーム機の情報がやや曖昧のように思えた。じゃあ、久しぶりに成田に行ってこの目で確かめてみるかと、がっつり2時間以上をかけてはるばるやってきたという次第だ。

しかしながら結論から言ってしまえば、もうない。なにもなかった。
…というより、成田空港の商業施設自体がコロナによるダメージからいまだ回復していない。飲食店は閉店し歯抜け状態だし、土曜だというのに人もまばら。せっかく日本に来てくれた海外の方もこれを見たら不安になりそうな状況になっていた。
2019年に国際線到着通路に任天堂のゲームが体験できるスペースができたのだが、現在ではNintendo Switchも完全に撤去され、海外からはるばるやってきた人が到着ロビーを抜けていきなりマリオと写真撮影するだけの虚無空間になっている。

成田空港の任天堂ブースです

結局、空港で見かけたなんとなくゲームっぽいものといえばこのマリオと、レゴショップのパックマン、あとはガチャガチャの1/24ゲーム筐体コレクションくらい。せっかくなので記念にガチャを回したら、アップライト型が出た。

こうして成田空港は空振りに終わった。
こういう展開には慣れっこなのでどうということはないが、このまま家に帰ると後々精神的なダメージがくるので、あらかじめ想定していたもう一案を発動することにする。

成田空港の周辺エリア南東寄りに「航空科学博物館」という施設がある。飛行機やヘリコプターといった航空機やそのレプリカ、航空関連のものをずらりと集めた博物館で、子供が実際に体験できるシミュレーターなどもありファミリー層に人気の施設となっている。
この館内にもちょっとだけゲームコーナーがあり、かつては『ランディング ハイ ジャパン』『エアラインパイロッツ』が仲良く並んでいた。下は2016年当時の写真だ。しかしそれも過去の話で、故障したまま放置されていたようなのだが、いま現在の状況がどうもハッキリしてこない。次はそこを見に行ってみよう。

2016年の航空科学博物館のゲームコーナーです

インフォメーションで訊ねたところ、成田空港第1ターミナルから航空科学博物館へのルートはバスがいいらしい。時刻表を確認してみたら、次のバスは1時間半ほど先。東京に向かう路線ならもっと本数は多いのだろうが、成田空港からその周辺に行く人など地元の人くらいのものだろうから仕方ない。たださすがに待機時間が長すぎるので、ここは芝山鉄道・芝山千代田駅から歩くルートを選択する。

芝山鉄道は、成田空港構内の地下を突っ切るようにして建設された東成田駅、芝山千代田駅の2駅からなる路線。この日本一短い区間の各列車に、警備のための警察官が乗り込むという時代が長く続き、いわば新東京国際空港の建設計画から開港に至るまでの重く険しい歴史を象徴するような存在として捉えられていた。開港から45年が経過し、昭和から平成、そして令和へと至った現在、特に発表されるでもなくその制度はぬるっと終了したようだが、成田空港周辺にくすぶり続ける緊張感はいまだに残っている。
ここらへんの闘争の歴史が気になるなら、航空科学博物館のすぐ隣にある「成田空港 空と大地の歴史館」(入館料無料)を訪れてみてほしい。人によっては、航空科学博物館より面白いこと請け合いだ。

終点の芝山千代田駅からは、歩いて航空科学博物館を目指す。バスもあるっちゃあるのだが、どうせいいタイミングで乗れる気がしないのであえて時刻表も確認しない。方向さえ間違わずに歩いていればいずれ着くのだ。

 駅前から先に進むごとにどんどん緑が濃くなっていく歩道をボンヤリと歩きながら、過去に行ったときのゲームコーナーを思い出していた。『ランディング ハイ ジャパン』『エアラインパイロッツ』か。そういえば、空港に置かれるゲームは、旅客機を操縦するタイプのシミュレーションが多いということが、個人的にずっとひっかかっていた。これから実際の飛行機に乗って空の旅に出る前に、「クラッシュ! 着陸失敗……さて、そろそろフライトの時間か」じゃねぇよ! とツッコミのひとつも入れたくなるというのがその理由だ。
 じゃあ、空港にマッチするゲームとは? と考えてみる。やはり旅が関係するものがいいかもしれない。『ミステリアスストーンズ』(テクノスジャパン/1984)とかどうだろう。世界の遺跡に出かけて冒険を繰り広げるロマン。あと『スーパーパン』(ミッチェル/1990)のツアーモードで世界の名所を巡るとか。もっともゲーム中は忙しないので背景を眺めてる余裕などないけども。そういや当時、いつ行っても『スーパーパン』をやってるおじさんがいたな。しまいには“パンおじ”と呼ばれてたあのおじさん、元気かな……などと考えながら歩くこと30分強。ついにただの1人も歩行者とすれ違うことなく航空科学博物館に到着した。

航空科学博物館の入り口です航空科学博物館の展示物です

建物の入り口から入ってすぐ左手にゲームコーナーが……ない。
ゲーム機が置かれていた場所は子供向けのミニイベント会場になっていた。
また空振りなのか!?  思わず天を仰ぐ。
コロナにより真っ先に廃止されたもののひとつがゲームコーナーである。不特定多数が入れ替わり立ち替わり手でレバーを握り、手でボタンを叩く操作を行うアーケードゲームは、知らず知らずのうちに感染を拡大させる可能性があるもの、という認識だったのだ。ましてや故障した機械など、そのタイミングで撤去されてもおかしくはない。
館内に入ってすぐの場所で、天を仰いだまま打ちひしがれるおじさん。
今日はこのパターンが続くのか?  嫌な予感が脳裏をかすめる。
せっかくここまで来たので入館することに。ここまで来て、ただで帰れようか。
空港のチェックインゲートを模したゲートをくぐって中に入る。ふと右手を見ると、そこに見覚えのある機械が。

スターウォーズ バトルポッドの筐体写真その1です
『スター・ウォーズ バトルポッド』(バンダイナムコゲームス/2014)。お前がいてくれたのか!
他にゲーム機は置かれておらず、まさに孤軍奮闘といった様子でひっそりと鎮座していた。やはり『ランディング ハイ ジャパン』『エアラインパイロッツ』は現役を退き、後進に道を譲ったのだな。
1プレイ300円か……おお、そうだろうよ。こういう場所ではそれが適正価格というものだ。

気持ちが落ち着いてくると、今度は「ここに置くゲームが『スター・ウォーズ』でいいのか?」という率直な疑問がムクムクと湧き上がってくる。旅客機シミュレーターは適切か否かという疑問を先ほど提示したが、はたして『スター・ウォーズ』はありやなしや。なんだかんだ航空戦闘機(宇宙機)を撃墜するゲームだし……。
しかし、ここは空港ではなく航空機に関する様々な歴史を学ぶ施設だ。その中には空で戦うための飛行機も含まれている。進化し続ける航空技術の先は、遥かなる大宇宙へと繋がっているのだ。うん、そういうことで納得しておこう。

スターウォーズ バトルポッドの筐体写真その2です

のちにネットで調べたところ、成田空港第1ターミナルのゲームコーナーに『ランディング ハイ ジャパン』『でんしゃでゴー!! キッズ』(タイトー/2019)とともにこの『スター・ウォーズ バトルポッド』が並んでいる写真をアップしている方がいるのを発見した。2019年頃には成田空港にあったものが、その後航空科学博物館へとやってきたと推測できる。
館内には子どもたちが多いわりに、あまりこのゲーム機に興味を示していないようにも見えた。それはよりリアルな飛行機の展示のほうが魅力的だからなのか、親御さんが1プレイ300円と書かれた紙を目ざとく見つけてなるべく近寄らないよう配慮しているからなのか。
ならば、と100円玉3枚を握りしめ、ポッドに颯爽と乗り込み操縦桿を握った。

スターウォーズ バチルポッドのコントロールパネルです

 

 

 

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著者紹介
さらだばーむ

目も当てられないほど下手なくせにずっとゲーム好き。
休日になるとブラブラと放浪する癖があり、その道すがらゲームに出会うと異様に興奮する。
本業は、吹けば飛ぶよな枯れすすき編集者、時々ライター。

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