東京都町田市鶴川。
訪れた「おもちゃの三景」を出て、ふと気づけばもうお昼時。
お腹も空いた頃合いで、鶴川団地セントラル商店街にある「夜もすがら骨董店」にフラリと入ってみる。
こちらのお店は、骨董店として古き良き懐かしの生活雑貨などを販売する傍ら、昼はカフェとして、夜はバーとしても営業している。
店内所狭しと置かれた味のある昭和雑貨や家電を眺めながら着席したのは、テーブル筐体。
実は以前に一度このお店に来たことがあり、その際にこのテーブル筐体が売り物でもあると伺っていた。ひょっとしたらもう売れてしまったかも……と思っていたが、お店を覗いてみるとそこにまだ鎮座していてなんだかホッとしてしまった。お店にとっては売れるほうがいいのかもしれないが、もし次に来店したときにこれがなかったら、やっぱりがっかりしてしまうと思う。
お昼のフードメニューをじっくり眺め、検討に入る。
たっぷり野菜のライスカレー、チキンドリア、前に来たときはカレーのオムライスを食べたんだったかな。
熟考の末、豚肉のしょうが焼きのドリンクセット、ホットコーヒーにしてみる。
なんだか土曜っぽい気がしたから。
注文を済ませて、改めてテーブル筐体を観察。
この『スペースインベーダー』(1978/タイトー)純正テーブル筐体は上部天板、本体部を脚部が鉄棒一本で支えており、重心がかなり上にあるせいか不安定で華奢な印象を与える。
側部には「アポロ音響株式会社」という古いシールが貼られており、この会社を調べてみたら現在は電気関連ではないもののいまでも町田市内に自社ビルが残っているようだ。つまり、この筐体はずっと町田に居た地域密着台ということになる。
そして、このテーブル筐体にはインベーダーと見せかけて『パックマン』(1980/ナムコ)が入っている。コンパネをよく見ると、インベーダーのビーム発射ボタンを取り外してそこに4方向レバーを移設するという改造が施されているのだ。そのため、インベーダーの2方向レバーがあった箇所は取り外された横長の穴が空いたままだ。
インベーダーブームの頃、レバーを左手で持ち、右手でボタンを押すという大まかなルールが定着した。たまに逆に付けられた台があるとそれだけで混乱したものだ。
では、パックマンは右手、左手どっちでレバーを握っていただろう。なんとなく右手……だった気がする。いや、テーブル筐体の場合左手で、アップライト筐体だと右手で持っていたような……。『スーパーパックマン』のバリーミッドウェイ版のアップライトはレバーを挟んで左右にスピードアップボタンが付いてたから、まだ揺れていた時期ではあるのだろう。あれ? いまは右手で持ってる? 左だっけ?
なにかに取り憑かれたように空中で右手と左手を交互にニギニギしていると、豚肉のしょうが焼きがやってきた。
自家製タレのしょうが焼きとキャベツ中心のサラダ、そしてご飯がワンプレートになっている。しょうが焼きには欠かせないマヨネーズもうれしい。レバーをどっちの手で持つかなどこの際どうでもいい。箸を右手で持って食べはじめる。
テーブル筐体の上でメシを食べるというのは格別だ。
すっかり言い忘れていたが、私の趣味の散歩は“ゲーム”“メシ”“銭湯”が三大テーマになっている。つまり、ゲームを愛で、メシを食い、風呂に入る。このテーマのいずれかがあれば満足、2つ満たされれば大満足、3つ揃えばもう言うことなし、なのである。
街にあるゲームセンターももちろん好きだが、スーパーやボウリング場、バッティングセンターなどにある小さなゲームコーナーの雰囲気も大好物だし、昭和から続く喫茶店に取り残されたテーブル筐体もたまらなく愛しく感じる。それが稼働していようが壊れていようがもはや関係ない。
今、この瞬間にもその姿を消しつつあるそうした物件を、一軒ずつ訪ね歩いていくというのがこの連載のざっくりした趣旨なのである。
柔らかな豚バラと食感を残した玉ねぎを、マヨをちょいと絡ませたキャベツとともに堪能しながらあっという間にしょうが焼きプレートを完食。食後のコーヒーがこれまた染み渡る美味さで、コーヒーグラスも可愛いので思わずニヤけてしまった。
パックマンの入ったスペースインベーダー筐体に別れを告げ、アーケード側の出口から外に出るとそのすぐ向かいに古着と雑貨のお店がある。
「ハーモニー」という看板を掲げたそのお店をふと見れば、ショーウインドウに手打ちのパチンコ台が飾られている。吸い寄せられるように店内に入ると、アメリカンテイストでありミリタリーチックであり、昭和レトロ感のあるサイケで雑多な感じがなんとも落ち着く。
棚に目をやると、なぜか『メガドライブ2』とトミーの『レッドミサイル』が。なんとなく手にとり眺めていると、店員さんがお試しプレイもできますよと声をかけてくれた。電池を入れてもらってテストしながらいろいろ話を聞くと、なんと「夜もすがら骨董店」にあるテーブル筐体は、こちらのお店から仕入れたものと判明した。
なるほど冷静に考えると「夜もすがら骨董店」の取り扱い商品は、同じ昭和でももう少し古いものが多く、アーケードゲームは新しい部類になるので、少しだけ違和感があったのはそういうことかと腑に落ちた。
こちらの「ハーモニー」では懐かしい雑貨類に混じって、ポロポロとゲームアイテムなども販売している。店頭には並べていないが、『ゲーム&ウオッチ』もいくつかあるようなので、行った際にはお店の人に訊ねてみるのもいいかもしれない。もちろんすでに売り切れている可能性もあるが、こういうものはすべてが一期一会だからいいのだ。
こんなのもありますよとゴソゴソと出してくれた、バンダイの『チャンピオンレーサー』も試遊させてもらった。左右ボタン操作とギアの切り替えを駆使して、いかに走行距離を伸ばすかという単純ながら奥深いゲームに思わず熱くなり、購入した。
しかし、家に戻ってからなんとなくの予感があって電子ゲーム置き場を探ったら、『チャンピオンレーサー』はすでに1台所有していたのである。
漫画のダブり買いはしょっちゅう起こるのでもはや気にもしていないが、ゲームのダブりは……それにも増して気にしていない。
それが欲しいと感じた衝動は、2度とも本当の気持ちだから。
そんないつも変わらぬ気持ちでいられることが嬉しいじゃないか。
いやいや、負け惜しみでなくホントに。
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