東京都町田市能ヶ谷。
小田急小田原線の鶴川駅から、目的地に向かって歩いている。
普段から運動らしい運動をしていない私にとって、散歩は唯一と言っていい体を動かす趣味であり、これさえやっとけば健康を維持できると信じてすがりつく信仰でもある。地図を見て歩けそうだと思えばとりあえず歩いてみる。無理だと思ったらバスを使う。それくらいのユルいルールで散歩を続けている。
ゆっくり歩いて20分ほどで、鶴川団地付近に到着。
かつての鶴川村が町田市に編入合併されるにあたって、都市計画の一環として造られたのが鶴川団地だ。それは1960年代のことであり、現在その景色を見るといい感じに熟成した懐かしさを感じる。エリア中央にある団地の1階部分は鶴川団地センター名店街という店舗スペースで、現在もほとんどのお店が営業している。いわゆる「団地下」の商店は、周辺環境の変化や高齢化によりシャッター街化しているところが多い中、ここは静かながらも手堅い運営が行われていることが見て取れる。
その鶴川団地センター名店街の南西側に、鶴川団地セントラル商店街がある。「センター」(名詞)、「セントラル」(形容詞)と似すぎててややこしいが、要するに姉妹商店街だ。左右に店舗のある一直線上の通路上にテント式のアーケードが架けられ、これまたレトロな雰囲気を存分に醸し出している。
今回の散歩の目的の一つが、ここにある玩具店「おもちゃの三景(ホビーショップ サンケイ)」だ。
このお店には入り口が2つあり、ひとつは道路に面した表側に、もうひとつはアーケードから小路を抜けた先にある。そのアーケード側の入り口の向かいにこぢんまりとしたゲームコーナーがひっそりと存在している。
セガのアストロシティが1台、SNKのネオキャンディが1台。
アストロでは『ウルトラ闘魂伝説』(1993/バンプレスト)が稼働中で、ネオキャンディの方には『機動戦士ガンダム ガンダムVS.ガンダム NEXT』(2009/バンプレスト)が入っている。
ウルトラマンにガンダムという玩具店的超王道ラインナップ。
これをバンプレストによるプッシュと見るべきか、逆に玩具店としての忠誠心と見るべきか。
50円2プレイという設定も玩具店・駄菓子屋の店頭によくある仕様で、子どもたちが存分に楽しむための施策だろう。子供がお店にいる間は駄菓子を買ってくれる可能性があるワケで、その時間を少しでも長くするためでもある。三景の店内は駄菓子コーナーがわりと大きな割合を占めており、そこで駄菓子を買うことにより発生する小銭で『カーレース』といった10円ゲームを楽しむという循環も上手く機能している。
ネオキャンディ筐体の上部インストラクションパネルには、「メタスラ4」「魔界村」「パズルボブル」「スラムダンク」「マリオ」などと書かれた紙が挟まれており、その後ろには謎の数字が書かれている。これは一体……?
そしてひときわ太く黒々と書かれた「伊賀」は、『伊賀忍術伝 五神の書』(1988/日本物産)のことなのだろうか。それとも、伊賀忍者が主人公の『影の伝説』(1985/タイトー)か。あるいは“忍者=伊賀”というざっくりしたくくりで『忍者くん 魔城の冒険』(1984/UPL)、『忍者プリンセス』(1985/セガ)、はたまたありえないことだが『忍者ハヤテ』(1984/タイトー)か……などと、お店の人に聞いたところでまず正解がでなさそうな、どうでもいい妄想がむくむくと膨らむ。
ほかにも『太鼓の達人』(バンダイナムコ)、『ジャンケンマン』(サンワイズ)といった定番ものや、元・東亜プランのスタッフの一部が移籍したタクミコーポレーションのキッズメダルゲーム『コロコロクエスト』、16ビットホビーパソコン『ぴゅう太』の流れをくむプリスクールコンピュータコインゲーム(なんだそのジャンル)のアーケード移植版『ぴゅう太くん』(サンワイズ・トミー)など、どこか“おもちゃ”とか“ホビー”という関連を匂わせるマシンが揃っているのは偶然なのだろうか。
それにしても、このゲームコーナーは“景”が素晴らしくいい。
少し離れて眺めると、基板モノとプライズ、コインゲームに10円ゲーム、さらには大型筐体モノまでギュッと凝縮されており、それぞれのマシンに寄って見てみれば、半屋外にさらされた年季を感じさせる汚れや傷。目を瞑れば、80年代後半から90年代にかけてのゲーム熱狂期の賑わいが脳裏に浮かんでくるようだ。
そんな熱い想いを抱きつつ、立ったり座ったりいろんな角度からゲームコーナーを眺めていると、通りすがりの親子連れが不審な目を向け通り過ぎていった。
このゲームコーナーの造りからして元々は倉庫だったのではないかと予想し、店主さんに訊ねてみるとそういうわけでもなく、ずっと昔からゲームコーナーのままだったそう。雨ざらしになることもなく、じっくりと使い込まれたゲーム機たちに生まれた独特の風合い。故障中だったり、メンテナンスが行き届かなかったりするのもご愛嬌だ。
ここは創業50年を超える歴史をその身で感じつつ、じっくり楽しみたい。
ちなみに、1年ほど前に訪れたときは“PONY VIDEO GAME”と書かれた駄菓子屋ミニアップライト筐体が2台設置されていた。1台には『メタルスラッグ3』(2000/SNK)のインストラクションカードが貼られていたが稼働はしていなかった。もう1台の方はインストすら無い状態。おそらくはその後しばらくして、現在ガンダムの入っているネオキャンディとバトンタッチしたと推測される。他にもコイン系がいくつか入れ替わっており、そうしたいつなくなってもおかしくない“ハラハラ感”もこの手のゲームコーナーの醍醐味と言えるかもしれない。
ではここで、おもちゃ屋さんとしての三景も覗いてみよう。
最新の玩具ラインナップというよりは、低価格の買いやすい商品を揃えるとともに駄菓子や駄グッズなどで地域のリピーターを獲得するような品揃えになっている。
かつては家庭用テレビゲームも扱っていたそうで、その名残を店内のそこかしこに見ることができる。『3DO REAL』『ジョイボール』『ゲームギア パワーバッテリー』『PCエンジン インターフェースユニット』などの新品が定価販売され、誰かに購入されるときをじっと待ち続けている。そろそろ売れて欲しい、しかしずっとそこに居ても欲しい、などと勝手な思いが巡るのである。
初老を遥かに過ぎた大人が、不用意におもちゃ屋さんに長居してはいけない。
自戒を込めて言えば、本人は子供の頃に戻ったような気分でいたとて、傍からは自分が思っているより遥かに不審人物に見えていると自覚すべきなのだ。
おもちゃ屋や駄菓子屋はあくまで子どもたちが主役であり、我々のような大人は控えめに店内を巡った後、特に目ぼしいものがなかった場合は駄菓子をこれでもかと買ってから退店するのが肝要だ。
駄菓子は、結構な数を買ったなと思っても実際に精算すると300円にも満たなかったりするので、少し多めかなと感じるさらにその2倍は手にとって欲しい。「これだけ買ってこの価格……?」という衝撃を受けるとともに、現代において駄菓子屋という商売がいかにシビアであり、ただただお店の善意に依ってのみ成立しうるあやうい業種であるかを思い知ることだろう。
昨今、買い物袋も有料化しているが、駄菓子屋では無料で袋に入れてくれるところも多い。それに甘えず、できれば大きめのバッグで出かけるのがベストだ。駄菓子とて意外とかさばるので。
とりあえず、駄菓子をガッツリ大人買いしてお店を出る。
さて、次なる目的地に向かって、ぶらり歩き出そう。
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