インターネットが普及する以前の情報入手のためのメディアといえば、テレビにラジオ、新聞、雑誌といったものが主流でした。
その中で雑誌は制作に必要な人数や経費が少なく済むため、専門性や趣味性の高いものが多く発行されていました。パソコン関連の専門誌はざっと挙げるだけでも『I/O』『アスキー』『Oh!PC』『マイコンBASICマガジン』『ログイン』などがあり、それぞれが独自のスタイルを持っていることはあらためて説明するまでもないでしょう。
こうしたパソコン専門誌でも、さらにコアな志向の雑誌は存在し、異彩を放っていたのが『遊撃手』です。今回、東京都文京区のお客様からはこの『遊撃手』とその後継誌『Bug News』をお譲りいただきました。メジャー誌ではないからこその切り口は今読み直しても新鮮で、資料的価値が高いです。
『遊撃手』
『遊撃手』は1984年5月にラポートから創刊されました。ラポートといえば、『アニメック』や『ファンロード』でアニメマニアには知られた出版社ですね。刊行にあたっては山本陽一氏が編集長を務めています。山本氏は文芸誌『早稲田文学』に携わっていたこともあってか、ビジュアルよりもテキストを中心にした構成を打ち出し、海外のゲームを積極的に取り扱い、当時の他誌とは明らかに違うスタイルを確立していました。
狙っていた読者の年齢層も高めを意識して、ハードボイルド作家の大沢在昌氏(まだ『新宿鮫』シリーズを発表する前!)や、『ルパン三世』のモンキー・パンチ氏へのインタビュー記事があったりします。
「きびしい愛読者カード」と称したアンケートはがきも独特で、批判を中心に聞いていこうとしています。
その「きびしい愛読者カード」を元にした【ゲームソフト逆ベストテン】といった企画もありました。“つまらないものは、つまらない!”と読者の意見をストレートにさらすのは、当時も今もまず商業誌では見かけない行為です。
こうした挑戦的なスタイルは一定の支持を獲得するものの、制作コストの折り合いは悪かったようで、資金難により1985年1月、『遊撃手』は休刊の憂き目にあいます。創刊からわずか9号と、あまりに短い活動期間でした。
編集後記や他のページでもかなり未練があるのが見受けられます。
『Bug News』
1985年7月に河出書房新社から創刊されたのが『Bug News』です。『遊撃手』の休刊を惜しんでいたシステムソフトから山本氏が資金協力を得て、出版社と誌名を変えての復活でした。河出書房新社といえば文芸誌『文藝』で知られる出版社だけに、山本氏の編集姿勢に共感するところがあったのでしょう。『遊撃手』のスタイルを踏襲しつつも、よりPCゲームだけにとらわれない記事が充実した内容になっています。
『遊撃手』時代から『ウィザードリィ』には好意的でしたが、創刊号では制作者のひとりであるロバート・ウッドヘッド氏のインタビュー記事があります。
パソコンRPGの大御所『ウルティマ』の作者であるロード・ブリティッシュ氏へのインタビューを行なった号もあります。
若かりし頃のスティーブ・ジョブズ氏の記事や、スティーブ・ウォズニアック氏へのインタビューもあり、アップルコンピューターへの注目度の高さは『遊撃手』からブレずに続いています。山本氏のマッキントッシュへの傾倒ぶりは1987年に専門誌『MACLIFE』を立ち上げたほどで、結果として『MACLIFE』は『Bug News』以上に長命の雑誌となります。
「マックや98、X68kなどのシステム一式を組むお金があれば、ほかに何ができるのか?」といった特集や、読者アンケートをもとに「パソコンソフトの値段はいくらが適正なのか?」を問いかける記事など、今よりずっとお金のかかっていたパソコン環境に関わる問題に対してストレートにぶつかっているのも印象的でした。
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